第34章 手紙とハンドクリームが起こした奇跡✳︎宇髄さん
「感覚の鋭い人ですから記者が張っていることには気が付いていたはず。あなたを自分のものにするために意図的に撮られに行ったようですね」
嘘だ
「まぁうちのレーベルの社長…悲鳴嶼さんとしては、本人が本気で相手の女性を…すずねさんを必要としているのであれば止めることはしないと電話で言っておりましたので、私たちとしては特に問題ないのですが」
「…っ問題大ありです!私、天元さんのファンに殺されてしまいます!」
頭の中に天元さんのファンに追い掛け回され、責められる自分の姿が浮かび背筋がぞっとした。
「大丈夫です。週刊誌に一般人であるすずねさんの顔がそのまま載ることはありません」
「…よかった…それじゃあ特に問題はないですね…」
顔が載らなければあの写真の正体が”柏木すずね”であることがばれる筈もない。胸をなでおろしていた私に
「あなたにとって厄介なのはそちらではないと思います」
胡蝶さんが意味ありげなことを言いながらタクシーの助手席を指さした。
…何?
恐る恐るそちらに視線を移すと
「こいつをネットに拡散されたくなかったら、俺のものになれ」
「…!?!?!?!?!?!?」
助手席からこちらに振り返り、天元さんに抱かれているのが私であると、私の顔を知っている人間であればわかってしまう写真のデータが表示されているスマートフォンの画面をちらつかせた天元さんの姿がそこにあった。
「…っ脅しです!犯罪に片足突っ込んでますよ!」
「うるせぇ!お前が無理とかいうのが悪いんだろ!」
「…っそんな…胡蝶さん!助けてください!」
助けを求めるように隣にいる胡蝶さんの顔を見るも
「残念ですが、あなたが宇髄さんのミューズである以上、私は彼の暴走を止められませんし止めたくはありません」
綺麗な笑みで拒否され、天元さんの暴挙を止めてくれる気配は微塵もない。
「そ…そんな…」
力なくだらりと垂れている私の手を、胡蝶さんの小さくて女性らしい両手が優しく包み込み
「ご愁傷さまです」
恨めしいほどの素敵な笑みでそう言った。