第34章 手紙とハンドクリームが起こした奇跡✳︎宇髄さん
「…胡蝶さんの手…すべすべだぁ…」
これから待つ、非現実的で恐ろしく甘い未来から目をそらすようにそんなことを口走ったが
「すずねさんがくれるハンドクリーム、煉獄さんのお母様や、不死川さんの妹さんたち、それから冨岡さんのお姉さんも大ファンだそうです。きっとみなさん、宇髄さんのミューズがその送り主だと知ったら喜びます!」
逃避になるどころか、より深い沼にはまり込んだ気がしてならなかった。
…あんなもの…選ぶんじゃなかった…
"最近の☆HASHIRA☆の曲は神がかってる”
”天元に恋人が出来たかららしいよ?”
"あの週刊誌の人かな?"
”えぇー!最悪!みんなの天元なのに”
”馬鹿言うな。あれだけの曲が次々に産まれるんだ。感謝しろ”
"羨ましい!”
「何お前。またエゴサしてんの?真に受けやすいんだからやめろ」
天元さんはそう言って私の手からスマートフォンをヒョイと奪い取る。
「だってぇ…」
あれから私は、一人暮らしをしているアパートから、☆HASHIRA☆の関係者が住んでいるというマンションに強制的に引っ越しをさせられた。もちろんそこには天元さんも住んでおり、あれよあれよという間に囲い込まれてしまった私は、自分の部屋に帰ることも殆どなくなり(帰してもらえなかったんだもん)ほぼ同棲状態だ。
「んなことより!時透が新しい曲出来たから一緒に聴いとけってよ」
「え!?わぁぁぁ!イヤホン片っぽください」
「ほれよ」
「「…………」」
「これはまた…煉獄さんのエレキが光りそうな曲ですね」
「はぁ?お前…最近煉獄煉獄煉獄って煉獄ばっかじゃねぇか!」
「だって!最近ますます煉獄さんのエレキが歌ってるんですもん」
「ざっけんな!お前は俺のミューズだろ!他の野郎を見るな!」
「…っ…わかってます。あ!もうスネないでよ!」
「ならお前からキスしろ。すんげぇ濃厚なやつ。じゃねぇともう二度と歌詞が浮かばねぇ」
「……仕方ないなぁ…」
こうして私は、今日も今日とて”祭りと歌の神・宇髄天元”が神がかった歌詞を書くための手伝いをさせられる…させてもらえる、ファンとしては最高の椅子に座らされるのだった。
-完-