第34章 手紙とハンドクリームが起こした奇跡✳︎宇髄さん
ガクン
「……ん…」
身体が大きく揺れる感覚で意識が浮上する。
…揺れてる…電車の…中?…だめ…起きないと…
そう思いはするものの、瞼が重く、いうことを聞いてくれない。
…すっごく刺激的で…都合のいい夢だったなぁ…覚えてられるといいな
壁にもたれかかっている身体をもぞもぞと動かし体制を整えていると
「あ、目が覚めました?」
つい先ほども聞いた、可愛らしい、それでいて凛とした声が耳に届く。
…この声は……あ、そうそう。胡蝶さん。☆HASHIRA☆のマネージャーの……
「胡蝶さん!」
慌てて声のした方に顔を向けると
「ご気分は如何ですか?」
綺麗な笑みを浮かべた胡蝶さんの大きな目と目が合った。
「え…ちょ…あの…夢…?…ん…ここは…?」
「あらあら随分と混乱しているようですね。ま、目が覚めた時に知らない車に乗っていたら誰でも混乱しますよね。私はしませんけど」
胡蝶さんはそう言いながらカバンから水の入ったペットボトルを取り出し、ふたを開けると私にすっと差し出してくれた。
「飲んでください。頭がすっきりしますよ」
「…ありがとうございます」
おずおずとそれを受け取り一口飲むと、確かに頭がすっきりした気がした。
「これから大切なお話があるので飲みながらでかまわないので聞いて下さい」
「…はい」
「先ほどうちの馬鹿ボーカルの色気にあてられ居酒屋で気絶してしまったすずねさんは、お酒が回っていたせいかなかなか目が覚めませんでした」
「…はぁ」
「そうしたらですね。うちのボーカル、いつの間にかタクシーを呼んでいたようで」
「…へぇ」
「”こいつは俺が連れて帰る”なんて言って、あなたを抱きかかえたまま外に出たんです」
「……は?」
水を飲みながら適当に相槌をしていた私だが、胡蝶さんの口から紡がれた信じがたい内容に我が耳を疑う。
「そこをですね、見事にパシャッとやられまして」
胡蝶さんは右手で何かを持ち、人差し指でボタンか何かを押すような仕草をしてみせる。そのジェスチャーが、何を指し示しているか…そんなものはひとつしかない。
…週刊…誌…?
衝撃的すぎて、相槌すらも打てなかった。