第34章 手紙とハンドクリームが起こした奇跡✳︎宇髄さん
「…っごめんなさい!…胡蝶さん…あの…これは…」
何とか顔の向きを変え、胡蝶さんの方を見ながらそういうと
「あなたは謝る必要ありません。むしろ謝らなくてはならないのは私の方。うちの宇髄が失礼なことをしてしまい、申し訳ありません。ほら。さっさとそこをどいて下さい」
胡蝶さんは眉の端を申し訳なさそうに下げながら私に向けそう言い、その後青筋を立てながら天元さんに満面の笑みを向けていた。
…あんな怖い笑顔…初めて見た
そんなことを考えながら胡蝶さんを見ていると、顎を掴んでいた手が離れていき、元の、私を囲い込むように置かれていた位置へと戻ってきた。
…離しては…くれないのね
「食い物になんかしねえ」
「…と、言いますと」
天元さんは胡蝶さんと会話をしているはずなのに
…視線が…やばい…
その視線は、一心に私のそれへと注がれている。
私の心の奥の奥に訴えかけてくるような視線に
ドクドクドクドク
ピックをもらった時とは違った種類の鼓動が私の身体全体を揺らすように広がる。
…逸らしたいのに…逸らせない
落ち着いたはずの頬の熱も、先ほどトイレに入る以前よりも熱を増していた。
「お前の手紙読むと、調子悪かろうが気分が乗らなかろうが、頭の中に歌詞が溢れて来くんだよ。で、今日会って確信した。お前、俺のミューズだわ」
「…っ…!?!?!?!?!?」
「だからな?俺のものになれよ」
視線を外されないままおでこをコツンと合わされ
かぁぁぁぁぁ
と、自分でも信じられないほどに体温が上昇する。
…ミューズって…そんな…私が…大好きな天元さんの…女神…平々凡々な…女神…?
「…な?いいだろ?」
ちゅっ
フニンと柔らかく温かなものがおでこに押し付けられ
…ボフンッ
脳内で、聞いたことがないような音がした後
「っおい!?!?!?」
天元さんでいっぱいになっていたはずの私の視界は暗転した。