第34章 手紙とハンドクリームが起こした奇跡✳︎宇髄さん
「もうね!hold you like a snakeのサビ前のフレーズが痺れるんです!」
「…あの曲を選びますか。流石すずねさんですね」
「えへへ…バンドって言うのは、素敵な演奏があるからこそ成り立つんです!ボーカルばっかりきゃーきゃー言われるなんておかしいんです!素敵な演奏があるからこそボーカルが光るんです!」
”いいこと言うじゃん”
”そうだな!”
”悪い気分じゃない”
”ムフフ”
機嫌よくそんな会話を交わしている4人に反し
「おいこらちょっと待てよ!」
ガタリと音を立て椅子から立ち上がった天元さんが、私の手からグラスを奪い取り
「お前ちょいここに座れ」
つい先ほどまで私が座っていた席にグイっと腕を引っ張り再び座らされた。そして
じぃぃぃ
と、半ば睨むような視線を私へと寄こしてくる。
「やだ!そんなに見つめられると溶けちゃう!」
両手で熱くなる頬を覆いながらそう言うと
「そうだよな!お前…すずねっつったな!すずねは俺推しなんだよな!?さっきも俺の前に来たもんな!?俺推しの癖に、何であいつ等ばっか褒めてんだよ!」
天元さんは大層不満げな口調でそう言いながらバシバシとテーブルを叩いている。そんな天元さんをじっと見返し
「え?違いますよ?私は箱推しです」
…この人何言ってるんだろう?
なんてことを内心思いながらそう答えた。私のその言葉に、天元さんは赤茶色の瞳を大きく見開いた。
「はぁぁぁぁ!?あんだけ毎回毎回俺の声が好き、歌詞が好きって書いておいてなんで箱推しなんだよ!誰がどう考えても俺推しだろう!?」
そして大層整ったその麗しい顔を、私の平平凡凡なそれにぐっと近づけてくる。そんな天元さんの行動に、思わず頬に充てていた手をスッとズラし顔を覆い隠す。
「そんな至近距離で見ないでください!毛穴が見えちゃう!」
「っほら見ろ!毛穴見られたくねぇくらい俺が好きなんだろ!?お前は俺推しだ!ほかのメンバーじゃなくて派手に俺を褒めろ!」
そんな私と天元さんのやり取りを、一部はゲラゲラと、一部はクスクスと笑いながら見守っているようだ。
「無理です!」
「何でだよ!?」
顔の表面を覆い隠していた指をちょっとずらし、右目だけで天元さんのことを恐る恐る見る。