第34章 手紙とハンドクリームが起こした奇跡✳︎宇髄さん
「…なるほど!だからこんなにも楽しいんですね!外でお酒を飲むのがこんなに楽しいとは初めて知りました!大将!やっぱりもう一杯下さい!」
大将は大層困った表情をしている。
「俺はいいがよぉ…」
私を見ていた大将の視線が左へと移る。
「彼女の様子からすればあと1杯位飲んでも問題ないでしょう。こちらとしてももう少ししゃべってもらいたいところなので、先ほどよりも薄めでお願いします」
「しのぶちゃんがそう言うんであれば…」
大将はそうつぶやくと、カウンターの奥の方へと消えていった。
「私!貰ってくるわね」
蜜璃ちゃんは椅子から立ち上がり、すぐ隣にあるカウンターの方へと向かっていった。
「はいよ」
「ありがとうございます!」
大将からグラスを受け取った蜜璃ちゃんが、いまだに立ち上がったままの私のところに近づいてくる。そして私に向け両手で持ったグラスを
「はい、どうぞ!」
「ありがとう」
差し出してきた。それを私がきちんと受け取ったのを確認した蜜璃ちゃんは
「それでそれで!伊黒さんのキーボーはすずねちゃんから見てどんな感じなの?」
目をキラキラと輝かせながらそう尋ねてくる。
「伊黒さんのキーボドはねぇ…”バンドのキーボード担当”っていう概念に収まらないくらいに繊細で素敵な音を奏でられる人!」
「そうよね!そうよね!伊黒さんのキーボードは本当に素敵よね」
蜜璃ちゃんはそう言いながら小さくジャンプをしている。そんな蜜璃ちゃんを、愛おしげな瞳で見ている伊黒さんの顔が視界にチラつく。
「初めて伊黒さんが演奏している姿を見た時、すっごくキュンキュン…してるのは今だ!違う違う!あのね、その時は驚いたの!何あの要塞みたいなの!?って」
「…確かに前右左鍵盤に囲まれてっからな」
「2段になってる時もあるなァ」
「ロボットの操縦席のようだ!」
「見ていて目が回る」
「…お前達は俺を褒めたいのか貶したいのかどちらだ」
何やら皆さん口々に言っているようだが、☆HASHIRA☆への想いがMAXまで盛り上がってしまっている私にはそんなことはどうでもよかった。