第34章 手紙とハンドクリームが起こした奇跡✳︎宇髄さん
「私、煉獄さんのエレキを聴く前まではもっぱらアコギ派だったんです!」
「ほぉ!」
「でも、FireWallの煉獄さんのギターソロ!私、あれを聴いてアコギの音と同じくらいエレキの音が好きになったんです!あれは演奏というよりも歌を聴いているような…ギターって歌うんだっていうのをあれを聴いて初めて知りました!」
「凄い殺し文句だな!」
「なるほどなるほど。では次に冨岡さんはどうでしょう?」
「冨岡さんのベースですか?」
「はい」
胡蝶さんは右手に持った可愛い蝶々柄のペンを左右揺らしていた。胡蝶さんから冨岡さんの方へと視線をずらすと、涼し気な目と私のそれが合う。
「ベース…ベースって基本的にはあんまり目立たないじゃないですか?きちんと聴こうとしないと音が見つからない場合もあるし」
「…そうだな」
「ぶわっは!めっちゃしょんぼりしてやんの!」
「宇髄…笑うな」
「っでもですね!」
ガタリと椅子をずらすほどの勢いで立ち上がり、右手で握り拳を作りながら天井を見上げる様に上を見る。
「ライブで聴く冨岡さんのベースはもうとにかく最高なんです!心臓を揺らされるようなあの重低音!あの音があるからこそ曲全体が締まるんです!重厚感のある曲であればあるほど、冨岡さんのベースサウンドが光るんです!私、ライブアレンジバージョンのWater flowを聴くともう内側からぞわぞわぁっと感情が溢れてくるんです」
「…そうか」
「やだやだ!冨岡さんが微笑んでるわ!可愛い!」
「冨岡。そのニヤケ顔を今すぐやめろ」
「ライブアレンジバージョン…なるほど、その手もありますね。では次に伊黒さんはどうでしょう?」
「伊黒さんですか?あ、その前に!ちょっと熱く語りすぎで喉が渇いて来ました…大将!さっきのコーヒー牛乳をもう一杯お願いします」
立ち上がったまま右手をピンと天井に上げ、カウンターの向こう側にいる大将にそう声を掛ける。
「…嬢ちゃん。あんたがさっきから飲んでんのは酒だぜ?味は確かにコーヒー牛乳だが調子に乗って飲むと後が大変になるぞ?」
「へ?お酒?」
グラスを手に取り、底に1センチほど残っている液体をじっとみる。