第34章 手紙とハンドクリームが起こした奇跡✳︎宇髄さん
馬鹿なことをと思いながらも、私は天元さんに掴まれている方の手を何とか動かし
グィィィィィ
と、自分の左頬を思いっきり引っ張った。
「…お前…何してんの?」
頭上から聞こえてくるその問いに
「…ははひひほ…ひゅめのひょうなのへ…」
頬を引っ張る手をそのままにしながら答える。
「いやわかんねぇし」
「…っ…あまりにも夢のようなので確かめてみたんですけど…夢じゃない…んですね…」
「ったりめぇだろ」
「…ですよね…私…今日で世界が終わってもいいって思えるくらい幸せかも…」
思わず本音がポロリと零れてしまう。
「終わっちまったら困るわ!で、さっき胡蝶が言ってた通り、お前の話聞きたいんだわ。悪いんだけどこっち来てくんね?」
そう言って天元さんが顎で指し示したのは
「……あそこ…?」
「じゃねぇと話になんねぇだろ」
☆HASHIRA☆のメンバープラス、胡蝶さん、そして蜜璃ちゃんの席が加わったテーブルだった。現在空いているのは、先程まで天元さんが座っていた席と、新たに加えられたその隣の席のみ。
「はははは…☆HASHIRA☆の方々とおおおおお同じテーブルに……無理です!緊張で…私、さっきのライブの時にも申しました通り口下手なんです!皆さんが聞いていると思うと…余計しゃべれません!!!」
まだ何も始まっていないというのに、私は既にまともに話せる状態ではなかった。
「…よし!お前ちょっとアルコール入れろ!そうすりゃちったぁ緊張も解れる!」
天元さんは一旦私の腕からその手を放し、カウンターの方へ行った。
「大将!あのコーヒーのやつ!濃い目で一杯!」
「はいよ」
それからちょいちょいと私に手招きし
「こっち、来い」
と、あの甘く囁くような歌声を感じさせる声で私の事を呼んだ。
…あぁダメ…声が素敵すぎる…
大好きなその声に引き寄せられるように自然と脚が動いてしまい、フラフラとした足取りで天元さんの前で立ち止まる。