第34章 手紙とハンドクリームが起こした奇跡✳︎宇髄さん
お店の外へ出るとすぐに
「待たせちゃってごめんねぇぇぇえ!」
悲し気に眉の端を垂らした蜜璃ちゃんが私の方に駆け寄ってきた。そして私の両手を”どこからそんな力がでてくるの?”と聞きたくなってしまう程の強い力でぎゅっと掴んだ。
「…っ…全然!気にしないで!ほら、まだまだ終電まで時間あるし」
「もう!すずねちゃんったら優しい!さ!行きましょう」
掴んでいる私の手を解放してくれた蜜璃ちゃんが、今度は優しく私の左手をその右手で握り、何処かへ連れて行こうと引っ張り始めた。
「どこへ行くの?」
蜜璃ちゃんに歩調を合わせながらそう尋ねるも
「うふふ…とってもいいところよ」
「…いいところ?」
パッと聞いた限りでは怪しげな答えが返ってきた。
…え?まさかライブの打ち上げの席に連れて行ってくれるとか…いやいやまさか。いくらメンバーの彼女だからってそんなことが許されるわけないでしょ
"コアなファン同士の集いにでも連れて行かれるんだろう"という結論に至った私は、みんなからどんな☆HASHIRA☆愛を聞けるんだろう等と能天気に考えていた。
そうこうしている間に
”本日貸し切り”
と、外扉に張り紙のされている和風居酒屋にたどり着いた。
「甘露寺。迷わず来られたか?」
「えぇ!大丈夫だったわ!心配してくれてありがとう」
私は蜜璃ちゃんの手によって開かれた居酒屋の扉の向こうに広がる景色に、卒倒しそうになるのを懸命に堪えていた。
…うそ…何これ…これは…夢…?
居酒屋の扉を開け真っ先に蜜璃ちゃんに駆け寄って来たのは、先ほどステージで見事なキーボード裁きを見せていた、トレードマークと言っても過言ではないグレーのマスクを着け、宝石のように綺麗な緑と黄色のオッドアイが特徴的な伊黒さんだった。
…幻…?
そんなことを思いながら伊黒さんをじっと見ていると
「…何をジロジロ見ている」
と、睨まれてしまった。睨まれてしまったのだ。
「…本物…?」
伊黒さんは眉間に深い皺を寄せると
「この間抜けが本当にそうなのか?」
依然として私の手を握り続けてくれている蜜璃ちゃんに向けそう尋ねた。