第34章 手紙とハンドクリームが起こした奇跡✳︎宇髄さん
…やだやだ…何言ってんの私!?馬鹿ぁ!!!
受け取った小さな袋を胸に抱き、頭を下げ慌てて外へとつながる階段の方へ歩き始めると
「ははっ!何も謝ることねぇよ!気いつけて帰れな!」
私の背中に向け天元さんが声を掛けてくれた。
立ち止まり、慌てて振り返り、もう一度深く頭を下げた私は小走りで階段を昇った。
ライブハウスの外に出ると、顔見知りと思われるファン同士が楽しげにグループを作り談笑していた。そんな姿を見ながら
なんで…あんなことしか言えなかったんだろう…もっと…伝えたいことがあったのに…
あまり人のいない所にとぼとぼ向かい
……はぁ…
大きめのため息をつく。
私はいつもそうだ。肝心な時に肝心なことが言えない。心の中では溢れんばかりの気持ちを抱え
”☆HASHIRA☆の音楽への気持ちは、天元さんの歌声への気持ちは、誰にも負けない!”
そう言えてしまう程の気持ちはあるのに、それを口に出せない。
…大丈夫…私の気持ちは…全部手紙に書いてるもん。こんなことで落ち込むよりも、あんな風に天元さんの視界に入れて、声を掛けてもらえただけでも幸せだと思わなきゃ…チケット外れたファンだっているはずだし
そう自分に言い聞かせた。
…蜜璃ちゃんに会場の外に出たこと…連絡しておかないとな
ショルダーバッグからスマートフォンを取り出し、数時間前に連絡先を交換したばかりの蜜璃ちゃんに向け
”外に出たよ!伊黒さんと話してから出てくるよね?時間かかるだろうから、近くのお店で時間潰してるね”
と、メッセージを送った。するとすぐに返信メッセージが届き
”ごめんね…終わったらすぐに迎えに行くから!お店の場所が決まったら連絡ちょうだい!”
内容を確認した私は、地図アプリで最寄りのコーヒーチェーンを検索し、そこへと出発した。
40分ほどお店で時間を潰していると
”着いたわ!遅くなってごめんね!”
と、蜜璃ちゃんからメッセージが届いた。マグカップに残っていたカフェラテを一気に飲み、返却台へと持って行くと急ぎ足で店の外へと向かった。