第34章 手紙とハンドクリームが起こした奇跡✳︎宇髄さん
中はすでに7割ほど埋まっており、当然ながら前に行くことも、中腹部にある手すりのある見やすい場所も埋まってしまっている。
やっぱり今日は一番後ろしかないか
私と同じく一番後ろを好む人が何人かすでに壁際に立ってはいたものの、私一人が入る場所は何か所か空いている。その中でも真ん中に近い場所を選び
「…すみません」
左右にいる人にそう声を掛けながらするりとそこに身を収めた。
相変わらず男女両方に人気があるよなぁ
そんなことを考えながら、メンバーが現れるまでの時間を人間観察に勤しむ時間に使うことにした。
脳内でお気に入りの曲を流しながら楽し気に各々の時間を過ごしている人たちを見ていると
「あぁ~!遊びでいいから天元に一度抱かれてみたいなぁ~!」
「わかるかわる!あのセクシーボイスで耳元で囁かれながらシテもらえるならワンナイトでも遊びでも全然いい!」
斜め前にいる女の子2人組のそんな会話が耳に入ってくる。
…ちょっとわかるかも
思わず心の中で同意してしまったが、そんな少女漫画や映画のように事が上手く進んでいかないのが現実ってものだ。
「ファンレターに連絡先入れたりとか、自分のエッチな写真とか入れてアピールする子もいるって聞くし、もしかしたら古くからのファンとかはつまみ食いしてもらったりしてるかもねぇ」
「えぇ~いいなぁ~私の事もつまみ食いして欲しい~」
…つまみ食いかぁ…私は…あんな素敵な世界観を持ってる人に愛されてみたいな……ま、それこそつまみ食い以上にありえないけどねぇ
そんなことを考えていると、ふっと会場が暗くなり
きゃぁぁぁぁぁ!!!
メンバーが姿を見せたのか、女の子たちの黄色い歓声が会場に響き渡る。私自身はそう言った声は出すことはないが、それでも自然と気持ちは高揚していく。
歓声の波が引き始め、演奏が始まる合図、ドラムの不死川さんがドラムスティックでカウントを3回とった後
天元さんの歌声
煉獄さんのエレキギター
冨岡さんのベース
伊黒さんのキーボード
不死川さんのドラム
4つの音と歌声が重なり合い☆HASHIRA☆の演奏が始まった。
…全身が…ぞわぞわする
5人の手で紡がれる音楽に、ブワリと身体の奥底から感情が溢れてくる。