第34章 手紙とハンドクリームが起こした奇跡✳︎宇髄さん
ライブハウスの前には整理番号順に人が並んでおり、開場時間にきちんと間に合ったことにほっと一安心した。
「間に合ってよかった…」
「そうね。すずねちゃんは整理番号何番なの?」
「私?私は……10番なの」
「え!?10番なの!?10番ってもうとっくに過ぎちゃってるじゃない!」
「…そうなんだけどね」
ライブハウスのスタッフの声掛けは”整理番号150番以降の方~”と、私の持っている整理番号はとっくの昔に呼ばれてしまっていることを示していた。
「…せっかくこんなにもいいチケットがあたったのに…道に迷って遅刻するなんて…馬鹿だよね」
真剣な表情で、それでいてとても楽しそうに歌う姿を目に焼き付けたかったのに…
苦笑いを浮かべながらそう言うと
「…っでもでも!今から入れば半分よりも前には行けるはずよ!すずねちゃんの身長だと、ちょっと周りに埋もれちゃうかもしれないけど後ろの方よりは見えるはずよ!」
蜜璃ちゃんは私のことを励ますようにそう声を掛けてくれた。
「…そうだね!よし!蜜璃ちゃんのおかげでせっかく間に合ったんだもん!楽しまなくちゃ!」
「そうよ!今日のセトリは凄いみたいだからいつも以上に楽しめるはずよ!」
「うん!蜜璃ちゃんは…整理番号いくつなの?」
「え?わ、私?私は…えっと…あ!実はお友達と最後に入ろうって約束しているの!だから私のことは気にせず先に入ってて!」
"蜜璃ちゃんと一緒にライブを楽しめたらな"なんて淡い期待をしていたが、お友達と約束をしているとなれば私がその空間に入り込むわけにはいかない。
「…そっか!それじゃあ、お互いに楽しもうね!」
「ええ!揉みくちゃにされないように気を付けてね」
「ふふっ気を付ける。ここまで連れてきてくれてありがとう」
最後にもう一度お礼を述べ、お互いに手を振り合い私はライブハウスの入口へ向かおうと蜜璃ちゃんに背を向け歩き始めた。