第7章 その音を守るよ-後編-【音好きシリーズ】
須磨さんおすすめの和菓子屋さんに立ち寄り、さつまいもを使った日持ちする和菓子を何個か購入した。それと一緒に、療養中お世話になったお礼として小さくて可愛らしいお饅頭をたくさん、蝶屋敷で働くみんなのために購入した。
嫌だな嫌だなと思いながらのろのろと向かっていたはずなのに、気づくと私は蝶屋敷の門の前に立っていた。
入りたくないなぁ。
この期に及んでそう思う私の肩に、
バサバサッ
「ひゃっ!」
急に降り立ったのは、
「杏寿郎様がお待ちだ」
私の鴉ではなく、
「…承知しました」
おそらく、いや、確実に炎柱様の鴉だった(何故かやけに丁寧になってしまうのは、鴉から謎の威圧感を感じたからだろう)。
意を決し、ガラリと蝶屋敷の扉を開け
「こんにちはぁ」
と声を掛けながら中に入ると、奥の方からパタパタと可愛らしい足音が近づいて来る。
「あ、柏木さん!お元気そうで良かったですぅ」
姿を見せたのはすみちゃんだった。
「こんにちは、すみちゃん。あの、お世話になったお礼にお饅頭を…」
そう言ってすみちゃんにお饅頭を差し出す私を、すぐ隣から真っ黒い瞳がジーッと見つめる。
「…それと、炎柱様に…会いに来たんだけど…」
本当は全然会いたくないが。
「わぁ!こんなにたくさんありがとうございます!炭治郎さん達もまだ療養でこちらにいるので一緒に食べさせてもらいますね」
そう言ってニコニコと笑いながら、嬉しそうに受け受け取るすみちゃんに自然と笑顔が溢れた。
「…炭治郎さん達ってことは、善逸もいるんだよね?」
「はい。いらっしゃいますよ」
チラリと肩に止まる炎柱様の鴉の方を向き、
「…先に、善逸達に会ってきても良いでしょうか?」
そう遠慮気味に問うと、
「良いだろう。…逃げてもすぐわかるぞ。杏寿郎様をこれ以上待たせるな」
そう言って一旦私の肩を降り、何処かへ飛んで行った。きっと、炎柱様のところに戻ったのだろう。
「…怖っ…」
思わず自分で自分の身体を抱きしめた。
すみちゃんはそんな私の様子を、困ったように眉を下げながら見ていた。