第7章 その音を守るよ-後編-【音好きシリーズ】
恐怖のお告げは、私が蝶屋敷を後にした7日ほど後に来た。
「すずね、お前にお館様より特別任務だ」
「……」
その言い方、嫌な予感しかしない。
黙ったまま返事をしない私を無視し、
「蝶屋敷で療養中の煉獄と、今回の列車での任務の報告書を作成して来い」
天元さんから告げられたのは、お館様自らがご指示する必要などカケラも感じないような任務内容だった。
「…それ、本当にお館様からのご指示ですか?」
眉間に皺を寄せながらそう問うた私に
「んなもん俺が知るかよ」
天元さんは日輪刀を手入れする手を止める事なく、更には私の方を見ることもなくそう言った。
「…だって…」
「だってもクソもあるか。子どもじゃねぇんだから。いつまでもそんなしけた顔してると、縛り上げて無理矢理煉獄の病室に放り込むぞ」
不味い…この人は本気でやる。
ギロリと私を睨みつけながらそう言った天元さんは、ガチャリと自分の日輪刀を隣に置くと、いったいどこから出してきたのか紐を取り出し、両手に持ってピンとその紐を伸ばしていた。
逃げるという選択肢はもう無さそうだ。
「…わかりました。行ってきます。それで、いつ行けばいいんですか?」
「可能な限り早く。つまり今からだな」
「…今から…」
どうしよう。色々と心の準備が出来ていない。私は一体、どんな顔で炎柱様に会えばいいのだろうか。
「…んな顔で俺を見んな!全ては煉獄の呼び出しを無視してきたお前の責任だろ。お館様まで巻き込みやがって。少しは反省しろ!」
天元さんのその言葉に、私は目を見開き固まる。
「まさかお前、俺が知らないとでも思ってたのか?俺のところにも何度も何度も煉獄の鴉が来てんだよ。だがこれは、お前と煉獄の問題だ。俺が口を挟む事じゃねぇ。だからお前が、自分で、何とかしてこい!」
「……わかりました」
もう、腹を括って行くしかない。
「…天元さん、炎柱様の好物はご存じですか?」
「芋」
「芋?」
「さつま芋だ」
「…さつま…芋?」
良いお家柄の割に、庶民的なものが好きなんだな。
そんな炎柱様の一面を可愛いと思った。
けれども、可愛いと思ってしまった自分がどうしようもなく嫌だと思った。