第33章 泣き虫鳴柱は長男に甘えたい✳︎炭治郎
兄の形見である大きめの羽織を身にまとっており、柱の証である金のボタンは見えにくい。だから鬼だけでなく、同じ鬼殺隊の隊士にも柱と気づかれないことが多かった。けれども別に私は柱という地位には執着もなかったし、はっきり言ってしまえばなりたくないとすら思っていた。だから自分から”柱”だと明かすこともなかった。
さっさとその頸を切り落としてやろうと足にグッと力を込めたその時
「大丈夫ですか!?」
「…っ!」
私を鬼から庇うように、背中に不思議な箱を背負った市松模様の羽織を着た隊士が現れた。はっきり言って自分より弱いと思った。それでもなぜか
…この子…お兄ちゃんと雰囲気が似てるかも
そう感じてしまい
「…はい…!」
その背中に甘えたいと思ってしまった。
自分よりもずっと年下で階級も低い男の子に対して”甘えたい”と思うなんて、我ながらどうかしているよね
頭の片隅でそう思いながらも、頭にポンと添えられた手に、柔らかな瞳で私を見下ろすその表情に、長年奥底にしまい込んできた
”もう一度大好きな兄に甘えたい”
と願う感情を留めておくことが出来なかった。
"炭兄と呼ばせてほしい"なんて馬鹿げたお願いも、何の躊躇もなく受け止めてくれて、偶然会えればお兄ちゃん風を吹かせ私に接してくれる。それが嬉しかった。
それでも、自分の素性を明かさず、実は年上であること、そして柱であることを隠しながらそうさせてもらうことに何の罪悪感も感じないわけじゃなかった。
次こそ言おう
次こそ言おう
そう思いながらも結局言えなくて、そんなことを何度となく繰り返しているうちに
「…臨時の…柱合会議…か…」
鬼である禰󠄀豆子ちゃんの最近の様子を確認するためと、集まれる柱のメンバー、そしてもちろん炭兄で臨時の会議(報告会と表現した方が正しいのか)を実施するとお館様より連絡を賜った。