第32章 迷子の迷子の鬼狩り様✳︎煉獄さん
部屋をぐるりと見回した後、家の外で鴉を撫でている煉獄様へと視線を戻した。太陽の光のように暖かな笑みを鴉に向ける煉獄様の表情は、私がこれまでの人生で見て来たどんな人の笑顔よりも素敵だった。
そんな様子を眺めていると、ふと一つの疑問が頭に湧いてきた。
「…煉獄様」
「む?なんだ!」
「煉獄様は、どうしてあの時、あのタイミングで来てくれたのですか?」
鴉が持って来てくれた文には14過ぎとそう書いてあった。けれども、あの時、叔父の腕についていた時計はまだ13時前を示していた。煉獄様が扉を蹴破り助けに来てくれたのは、その10分後位、迎えに来てくれる時刻よりかなり速かったはず。
「念のため、鴉にこの家を見張らせていた」
「…え?」
煉獄様はそう言って鴉の方に向けていた視線を私へと向けた。
「この家に誰か近づくようなことがあればすぐ俺の元に知らせてくれと、そうお願いしてあった。だが運悪く来客と重なってしまい、知らせを受けてからここまで来るのに時間が掛かってしまった」
煉獄様はそう言うと再び
「怖い思いをさせすまなかった」
と、私に謝罪を述べた。
「…謝らないでください」
私はそう言いながら歩き始め、扉のない玄関を通り抜けると煉獄様の前で立ち止まった。そしてその猛禽類のような目をじっと見据える。
「煉獄様は、私の命だけでなく…心も救ってくれた恩人です。お礼を述べることはあれど、謝罪をいただく必要なんてありません。…大した事はできない私ですが、今後の人生、煉獄様に尽くし、煉獄様のために生きると今日ここで誓います!」
私のその言葉に
「…っ待ってくれ!俺に尽くし生きる?大袈裟すぎる!そこまでする必要はない!」
煉獄様は大きな目を更に見開き驚いている。
「大袈裟なんかじゃありません!私今、これまでの人生で1番ワクワクしているんです!煉獄様が鬼狩り様として力を発揮できるよう、命をかけて炊事、洗濯、もろもろ全ていたします!私は燃えています!燃えに燃えているのです!」
両手に作った拳を激しく上下させながらそう言った私に
「…ワクワクしている…か。わかった!ならばこれ以上は何も言うまい」
煉獄様は正面で腕を組み、目を瞑りながらそう言った。