第32章 迷子の迷子の鬼狩り様✳︎煉獄さん
「…っ…だって…もしあのままあの人たちにつかまっていたら…私…遊郭に売られてしまうところだったんですよ!?両親が残してくれた財産も…人としての尊厳も…両方失うのであれば…私は死んだ方がマシだと…そう思ったんです」
あの時の私の判断は絶対に間違ってなんかいない
そんな気持ちを込め、私をじっと見据える煉獄様を見返した。
しばらくそうして睨み合っていたが、煉獄様の顔からふっと力が抜け
「…そうだな。もし俺が君でも…同じ選択をしていたかもしれない」
そう言いながら、私の頭にポンとその大きな右手を置いた。
「だが二度と、そんな選択はしないと約束してくれ」
「…約束…ですか…?」
「うむ」
なぜ私が、煉獄様にそんな約束をしなくてはならないのか、いまいち理解できなかった。
理解は…できない。それでも、私は
「…わかりました。煉獄様に救っていただいたこの命…決して無駄にしないと…約束します」
赤の他人に近い私に対し、こんなにも真剣な表情で向き合ってくれるこの人を、無碍にすることなんてできなかった。
私の返事を聞いた煉獄様はパッと明るい表情になると
「それは良かった。君の作った漬物の味を、俺の舌はすっかり覚えてしまったからな!作ってくれる君がいてくれない困る!」
と、そう言った。
「…漬物が…ご目当てで…」
煉獄様の口かた発せられた言葉に、思わずそうぼそりと呟くと
「む!?違う!ん?違くはないのだが…いや!違うんだ!」
初めて見る慌てふためく煉獄様の様子に
「…っふ…あははははははは!!!!」
私は、両親が亡くなって以降、初めて声を出して笑った。
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「準備は整っているか?」
扉の無くなった玄関を潜り抜け、まだ内側にいる私のことを振り返りながら煉獄様はそう尋ねてきた。
「はい」
必要なものは全部風呂敷に包んだ。両親の形見も忘れていない。