第32章 迷子の迷子の鬼狩り様✳︎煉獄さん
「っ申し訳…ありませんでしたぁぁあ!!!」
土下座をし、そう叫んだ叔父に
「謝るべき相手は俺じゃないだろう」
煉獄様はそう言った。すると叔父は、部屋の端で座り込む私の方へとまっすぐ身体を向け
「…申し訳…なかった…」
声を震わせそう言った。
「…そのお金は好きにしていい…だから…もう二度と…私の前に現れないで…!」
叫びながらそう言うと
「…わかった…もう二度と現れないと…約束する!」
叔父はそう言った後、煉獄様の方へと視線を向けた。
「彼女がそう言うのであれば俺から言うことはない。行くといい」
「…っはい!失礼します!」
早口でそう言い、金の入った袋を大事に抱え、煉獄様が破壊し、扉のなくなった玄関から出て行った。
……終わった
結局、両親が私のために残してくれた財産は叔父に取られてしまった。けれどもその代わり、もう隠れてこそこそ暮らす必要はない。人里離れた寂しい隠れ家でコソコソとではなく、普通に暮らすことができる。
そう考えると、自然と両目尻から涙がツゥーっと流れてきた。
「遅くなりすまなかった」
叔父の姿が見えなくなったのか、煉獄様がそう言いながら私の方へと近づいてくる。煉獄様は、しゃがみこんでいる私に視線を合わせるように膝立ちになり私と目線を合わせた。
「口から血が出でいる…殴られたのか?」
そう言いながら私の唇の端を親指の腹でグイっと拭った。
「…俺がもう少し早くここについていれば…君が殴られることも、あのように怖い思いもさせずに済んだはず…不甲斐ない」
煉獄様の眉間には深いしわが刻まれており、苦しげな表情を浮かべている。
「…殴られてはいません。これは自分で舌を噛んで出血したものです。まだ少しじんじんしますが、そこまで痛くはないので…そんな顔をしないでください」
私を助けてくれた救世主である煉獄様に、自分のことを”不甲斐ない”などと言って欲しくなかった。殴られていないとわかれば、煉獄様の気が少しでも晴れるかもしれない。そう思ったうえでの発言だったのだが
「…自ら舌を噛んだのか?」
私の言葉を聞いた煉獄様の眉間の皺は、なくなるどころかさらに深くなった。
「なぜそのようなことをした?」
そして、心なしか怒っているようにも見えた。