第32章 迷子の迷子の鬼狩り様✳︎煉獄さん
「準備が整い次第迎えに来よう」
「…はい…」
もしその間に親戚が来てしまったら
そんな不安が一瞬頭を掠めた。けれども、そんなことを言ってしまえば煉獄様を困らせてしまうと思い、不安な気持ちをぐっと心の奥に沈めた。
着替えを済ませた煉獄様は、”来る前に鴉を飛ばす”と言って発って行った。
煉獄様がいなくなった隠れ家は、必要以上に静かに感じた。昨日までは、煉獄様がこの家に来るまでは気が付かなかったが、やはり私はずっと一人でこの家にいることが寂しかったのだ。
「…早く…迎えに来て…」
寂しい家で、ポツリと呟いたその言葉は、誰の耳に届くこともない。
煉獄様の鴉が文を届けに来たのは翌日の夕方のことだった。
喋る鴉(聞いてはいたものの驚きで目が飛び出そうになった)の脚に括りつけられた文を広げると、とても達筆な文字で
”明日の14時過ぎに迎えにく。準備をしておくように”
と、文字が綴られていた。それだけで、昨日煉獄様がいなくなってから感じていた寂しさがあっという間に消えてしまった。
…早く…明日が来ないかな…
それから早速、この家を発つ準備に取り掛かった。
翌日。
早めのお昼を食べ終えたが、時計はまだ12時前を示していた。
…ちょっと早く食べすぎちゃったな…でも、嬉しくてソワソワしちゃうんだもん
持っていく荷物の最終確認をしながら自分自身に言い訳をしていると
ドンドン
…煉獄様…もう来てくれんだ!
家の扉を叩く音が聞こえ、私は確認の手を止めすぐさま玄関へと向かった。
「今行きます!」
たたきにぴょんと降り、急ぎ草履をひっかけ内鍵を開けた。私が扉に手をかけるよりも先に、向こう側から扉が開かれ、急いで扉の外に目を向けると
「あぁ…やっと見つけた」
そこにいたのは、私が待ち望んでいた人とは真逆の
「…っ…!!!」
「こんな場所があったとは道理で見つからないわけだ」
二度と会いたくないと思っていた人物だった。