第32章 迷子の迷子の鬼狩り様✳︎煉獄さん
「そんなにもぎゅっとされてしまうと照れる!」
明後日の方向を見ながら、相変わらず快活な声でそう言った煉獄様に、私は自分の置かれている状況を段々と把握し始める。
…ちょっと待って…私…ずっと…煉獄様に横抱きにされてて…え?…首に腕を回してて…ん?これって思いっきり抱き着いて…っ
ようやく自分が煉獄様に抱かれ、縋りつくように腕を回していたことに気が付いた私はさっとその手を放し、手のひらで顔を覆い隠しながら
「…すみません…降ります…」
蚊の鳴くような声でそう呟いた。
「ゆっくり降ろす。気を付けるように」
「…はい」
煉獄様は宣言通り私をとても丁寧に地面へと降ろし、私がきちんと一人で立てたことを確認すると
「…すずねさん…君がどうしてこんなさみしい場所で一人暮らしているのか教えてくれ」
私の目をじっと見ながらそう言った。
「…長くなりますが…良いですか?」
「もちろん!」
「…お茶を淹れます…中に入りましょう」
「うむ!」
煉獄様の返事を聞き終えた私は、巾着袋から鍵を取り出し玄関の鍵を開けた。
「…そんな酷いことが出来るとは…同じ人とは思えない」
「…確かに…いっその事、相手が鬼の方があきらめもついたかもしれませんね」
私がなぜこの隠れ家で、人目を盗むように暮らしているか。事のあらましを聞いた煉獄様は、腕を組み、眉間に深い皺を寄せていた。
「さっきの男は…私を探し出すために親戚が雇ったんだと思います」
「だろうな」
「…この家も…見つかるのは時間の問題かもしれません…」
ここに越してきた当初。私にとっては特に思い出のないこの隠れ家は、親戚から隠れて暮らすためのただの住まいでしかなかった。それでも、ところどころに見つけられる、父と母がいたという確かな気配に、あっという間に安らげる居場所となった。
そこを出ていかなくてはならない
「…っ…いつまで逃げればいいんですかね。もういっそのこと全財産渡して一文無しになった方がいいのかもしれない…」