第32章 迷子の迷子の鬼狩り様✳︎煉獄さん
「…違います!お願いだからついてこないでっ!」
速足で歩きながら必死でそう訴えかけるも、聞いてくれるはずもなく
「待てって!」
男は道を塞ぐように私の前に回り込んでくると
「一緒に来い!」
すっと私に向け腕を伸ばしてきた。
「…っ嫌!」
後数センチで男の手が私の手首に届きそうになったその時
グンッ
「…ひゃあ!?」
突然体が浮き上がり、男との距離があっという間に開いた。
そして
「大丈夫か?」
「…煉獄…様…?」
つい先ほどまで、私の目の前にはあの男がいたはずなのだが、今私の目の前には、私のことを心配げに見下ろす煉獄様の顔があった。
その顔を見た途端、急に安心してしまい
「…ふ…っ…」
涙をこらえることが出来なかった。
煉獄様は一瞬目を見開き、その後男のいる方をその猛禽類のような目で睨みながら
「あの男はすずねさんの知り合いか?」
そう尋ねてきた。フルフルと首を左右に振り否定の意を示すと
「わかった。首に腕を回せるか?」
煉獄様はそう言って、自分で自分を抱きしめるようにしている私の腕にじっと視線を寄越してきた。煉獄様の意図することがいまいちわからず、黙ってその顔を見上げると
「早くしないとあの男が来てしまう」
煉獄様はそう言って私のことを急かす。
「…はい」
言われた通り煉獄様の首に腕を回すや否や
「しっかりと掴まっているんだぞ!」
グンッ
「…ひゃあ!?」
今日二度目の感覚に襲われ、驚き目を瞑る。けれども今度は先ほどとは違い、グワングワンと身体が揺れる感覚がなかなか収まらない。恐る恐る薄目を開けてみると
「…っ!?!?!?」
私は…正確には、煉獄様に横抱きにされた私は、屋根の上を走り、跳び、 あっという間に町の外へとたどり着く。さらにそのままあの隠れ家まで舞い戻り、気がついた時には目の前に玄関があった。
全く状況に付いていけず、ただただ瞬きを繰り返しながら家の扉をぼんやりとみていると
「ずっと言おうか迷っていたのだがもう限界のようだ」
斜め上から聞こえてきた煉獄様の声に、扉に向けていた視線を煉獄様の顔へと向ける。