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鰯料理の盛合せ【鬼滅短編・中編・長編番外編】

第32章 迷子の迷子の鬼狩り様✳︎煉獄さん


お金を持っていないからと遠慮をしているのか、1つしか頼もうとしない煉獄様に

”こう見えてものすごくお金持ちなので、好きなだけ頼んでください。私も1年以上ぶりの外食なので、出来れば少しずつおすそ分けして下さい”

そう頼むと

”わかった!だが代金は後で必ず払おう!”

そう言って種類の違う定食を8つも注文していた。

”美味い!美味い!”

と、いちいち言いながら食べる煉獄様は、はっきり言ってうるさくはあったのだが、久方ぶりの誰かとの外食はただただ楽しくて仕方なかった。




そのあまりの楽しさにかまけて、私は自分が身を隠さなくてはならない存在であることを一瞬忘れてしまったのだ。




「すずねさん…笠を被っていないようだが大丈夫か?」

「…え?」


昼食を取り終え、”ついでに食材の調達でも”と考えていた私に向け煉獄様が放った問いに、私の背筋は一瞬で冷たくなる。


「…笠…っ…お店に預けてそのまま…」


定食屋に入った際、店内が狭いのでお預かりしますと言われ仕方なく預けた笠を、うっかり受け取り忘れてしまっていた。


「…っ直ぐ取って来ますので待っていてください!」


そう慌てて駈け出そうとしたが


「俺が取って来よう!」


煉獄様は私の右肩に左手をポンと乗せそう言うと、私が断るよりも先にさっと駆け出してしまう。

あっという間に定食屋の中に入って行ってしまう煉獄様の横顔を見ながら


…あんな素敵な人…世の中にいるんだ


なんてことを考え、呆然とその場に立ち尽くしていた。




その時。




「柏木すずねさん?」

「…っ…!!!」


突然背後から名を呼ばれ一瞬息が止まった。


…名前…どうして…私の名前を…


固まったまま何も答えずにいると、ふっと私の視界に入り込むように一人の男が映り込んできた。その男は、写真のようなものを手に持っており、私の顔とその写真を見比べているようだった。


…っ…まずい…!


「人違いです!」


吐き捨てるようにそう言い、くるりと身を翻し町の出口へと急ぎ向かおうとした。けれども


「いやいや。どう見ても写真と同一人物でしょ?それに違うならそんな風に逃げる必要もないじゃん」


そう言いながら男は私の後を追いかけてくる。


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