第7章 その音を守るよ-後編-【音好きシリーズ】
「炎柱様なら、1番奥の個室でお眠りになってらっしゃいます。よく眠れるお薬を処方しておりますので、目が覚める事はないでしょう」
「1番奥の個室…」
「今通ってきた廊下の突き当たりにあるお部屋です。…お顔を見に行かれますか?」
「…え?」
驚き、パッとアオイさんの顔を見ると、いつもと変わらない表情で私を見ていた。
「良いんですか?」
普通に考えれば、私のような一般隊士が柱が療養している部屋に(ましてや今は薬で眠っている状態だ)入ることなんて許されないだろう。
なのに何故?
そんな私の思いは筒抜けだったのだろう。アオイさんは
「しのぶ様が、もし柏木さんが炎柱様のお顔を見たいと言ったら案内するようにと言っていましたので」
とそう言った。
「…胡蝶様が…?」
さっきはそんなこと、少しも言っていなかったのに。胡蝶様はいったいどんなつもりでそう言ってくれたのだろうか。
「それで、どうされますか?」
最後に見た炎柱様の姿は、片目が潰されて、血まみれで、ボロボロだった。呼吸音も、心臓の音も、いつもの力強いものとは天と地ほどの差があって、自分が知らない間にその音が消えてしまうんではないかと思ってしまう程に。真っ先に医療班に連れていかれる姿を見て、ホッとはしたものの、やはり自分の目でその無事な姿を、音を聞かないと不安だった。
「…お願い…します」
アオイさんはほんの少し口元を緩めると、
「こちらにどうぞ」
と言いながら、静かな廊下を進み、炎柱様の眠る病室へと私を案内してくれた。
私が療養する部屋からほど遠くない場所にその個室はあった。
「仕事が残っているので、私はここで失礼します」
「あ、はい!お仕事中なのにありがとうございました」
そう言って頭を下げる私にアオイさんは
「これもお仕事のうちです。貴方も怪我人なのですから、早めにお部屋にお帰りください」
そう告げ、きた道を戻ろうとクルリと方向転換した。
「それでも…!ありがとうございます!」
再び頭を下げる私に、アオイさんは一旦脚を止め私の方にチラリと視線を寄越し
「お大事になさって下さい」
と言って今度こそ去って行った。