第32章 迷子の迷子の鬼狩り様✳︎煉獄さん
煉獄様の羽織を掴みそう言いながら出ていこうとするのを引き留めると、煉獄様はただでさえ大きな瞳を更に大きく見開き私の方へと振り返った。
「…鬼狩り様が困っていたら助けになるように…亡き両親との約束なんです!…その約束を…破るわけにはいきません!だからどうか、迎えがくるまで…術が解けるまでここにいて下さい!」
我ながら意味不明なことを口走っている自覚はある。こんな狭い家、育ちのよさそうな煉獄様には窮屈かもしれない。それでも、”亡き両親との約束を守りたい”、そんな自分勝手とも言える感情に任せ私はそう口走っていた。
煉獄様はじっと私を見た後
「……わかった!実のところ食べ物が見つかるかどうか不安に思っていた!術が解け、家に帰れるようになった暁には必ず礼に来る。しばらくご厄介にならせてもらおう!」
笑みを浮かべそう言った。
「…ありがとうございます!」
「わはは!君が礼をいうのは可笑しいだろう!」
「…確かに…そうですね」
「名をまだ聞いていなかったな。俺の名は煉獄杏寿郎」
「…私は、柏木すずねです」
「すずねさんか!素敵な名だ!何日世話になるかわからないが、よろしく頼む!」
「…はい」
こうして煉獄様は、血鬼術とやらがとけるまで、もしくは迎えが来てくれるまで、この家に留まってくれることとなった。
夜通しの任務で寝ていないという煉獄様に湯を沸かすから身体を清めて布団で寝てくださいと提案するも、断られてしまった。けれどもそこで引き下がることなど出来ず、それならばと湯を溜めた桶と手ぬぐい、そして元々この隠れ家にあった父のものだと思われる着流しを押し付けるように渡し
”私は庭で畑いじりをしていますので、煉獄様はきちんと休んでくださいね!絶対ですよ!”
と、収穫した野菜を入れる籠を片手に持ち一人外に出た。
扉を出てすぐ、自分一人だけが食べきれる程度の野菜が植えられた畑に向かい、食べごろのものがないかを確認していく。
うん。これは食べごろだな。煉獄様に食べてもらおう。
そんなことを考えながら枝になった野菜をもぎ取っていると、我ながら何をそんなに一生懸命になっているんだろうと疑問に思えてくる。