第32章 迷子の迷子の鬼狩り様✳︎煉獄さん
「ご馳走様でした」
軽くお辞儀をした。その様子に煉獄様がその見た目に反し、とても育ちのいい人だということが伺い知れた。
煉獄様はちゃぶ台へと向けていた身体の向きを私の方へと変えると
「急な訪問にも関わらず、こんなにも美味い食事をいただけ助かった」
そう言いながら先ほどご馳走様をした時よりも深いお辞儀をしてきた。
「…っそんな!いいんです!あんな質素なご飯…本来なら人に食べさせるようなものじゃありません…」
先ほど煉獄様の前に並べたご飯、味噌汁、漬物の姿を頭に思い浮かべると、なんて地味なご飯なんだろうとため息すら零れてくる。そんなことを思いながら空になった食器を片付けていると
「そんなことはない!漬物の塩梅も、根菜と味噌の風味が混ざり合った味噌汁も、つやつやなご飯も最高に美味かった!あんなに美味い朝食は久しぶりに食べた!」
「…っ!」
煉獄様がズイッと私の視界に入り込むようにしながらそう言った。その距離感はかなり近いもので、咄嗟に距離を取ろうとした私は後ろに転げそうになる。
煉獄様はさっと私の背後に移動すると
「大丈夫か?」
私の背を支え、私の顔を後ろから覗き込むようにその顔を近づけてきた。
そんな行動に
ドキッ
私の心が大きく波打つ。
…なにこれ…
戸惑い、目を大きく見開きながら煉獄様を凝視している私を、煉獄様もどこを見ているのか聞きたくなるような表情でじっと見ている。
しばらく黙ってそうしていた後
「では…そろそろお暇しよう」
煉獄様は私をしっかりと立たせるように起き上がらせると、ザっと足の向きを変え玄関の方へと歩き出した。
「…っお暇するって…帰り道がわからないんですよね!?どうするつもりなの!?」
慌ててそう尋ねると
「適当に歩いていればそのうちたどり着く。それに、この辺りは俺の見回範囲。いずれ要か、隠の誰かと会えるだろう」
そう言いながら、玄関の扉に手を掛けた。
「…だめですよそんな当てずっぽう!迷子になった時の基本はむやみやたらに動かない!それが鉄則です!それにさっき、お日様を浴びていれば自然と術が解ける可能性もあるって言ってましたよね!?だったらそれまでここにいてください!食べ物だってないんでしょう!?」