第32章 迷子の迷子の鬼狩り様✳︎煉獄さん
”私たちは昔、鬼狩り様に命を救ってもらったことがあるんだ。こうして今この瞬間も幸せな時間を過ごせているのは、私たちの知らないところで、鬼狩り様が命を張って鬼と戦ってくれているからなんだよ。だからすずね。もし困っている鬼狩り様や、怪我をしている鬼狩り様を見かけるようなことがあれば、必ず助けになって差し上げるように”
”この藤の花は、鬼除けの為に植えたものなのよ。この藤の花びらの入った香袋も、鬼から身を守る大事なものなの。あなたや、あなたの身の周りの人を守る大切な役割を果たしてくれるから、毎年必ず作るのよ?”
父と母からその話を聞いた時は半信半疑だった。それでも、屋敷の庭に植えられた藤の花が毎年咲く度に同じ話をされ、藤の花びらを集め香袋を作る父と母の姿を傍で見ていれば、自然とその話を信じるようになった。
この隠れ家の庭にも、藤の木が植えられている。
「…鬼狩り様」
ボソリと呟いた私の言葉は、しっかりと謎の男…もとい、鬼狩り様の耳にしっかりと届いていたようで
「はい!鬼狩りの、煉獄杏寿郎です!」
二度目の自己紹介をされる。
頼んでもいないのに二度も名乗のられ、これまで会ってきたどんな人よりも快活なしゃべり方をするこの人を、”悪い人”とは思えなかった。
何よりも
”必ず助けになって差し上げるように”
父のその言葉に背くようなことをしたくなかった。
「…煉獄様…扉を開けますので、一旦その手を放してもらえますか?」
「うむ」
…”うむ”…だなんて…一体どんなおじさんなんだろう
そんな失礼なことを考えながらゆっくりと扉を開く。
「朝早くから騒がせてしまい申し訳ない!」
「…いいえ…大丈夫です…」
姿勢よく謝罪を述べる煉獄様という鬼狩り様は、私とそう変わらない年齢に見え、古風な話し方からかなり年上の人だと思い込んでいた私は、驚き、その顔をじっと見てしまう。
そんな私の様子を、煉獄様もじっと見て…いるような気もするし、なんだか目が合っていないような気もする。そして微笑んでいるようにも見える…気がする。兎にも角にも、不思議な雰囲気をまとっており
…あ…森に棲んでる…ミミズクに似てるかも
最終的に出てきた印象がそれだった。