第32章 迷子の迷子の鬼狩り様✳︎煉獄さん
いつも通りの朝を迎え、いつも通りに朝餉を食べようとしていると
ドンドンドン
「…っ!?!?」
家の扉が、結構な音で叩かれる音に、危うく手に持っていたお茶碗を落としそうになる。
…え?何?誰か…来たの?
今の音は明らかに意図的に扉をたたく音だ。すなわちそれは、この隠れ家に誰かが訪問してきたことを示している。
…一体だれ?もしかして…親戚の誰か…?
そう考えると、自然とお茶碗を持つ手に力が入る。このまま返事をしなければ黙って去っていくかもしれないという淡い期待を抱き、返事をせずにいると
ドンドンドン
「おはようございます!」
今度は扉を叩く音の後に、なんとも快活な挨拶が聞こえて来た。
…親戚では…なさそう
そう判断した私は、手に持っていたお茶碗をちゃぶ台に置き、玄関にゆっくり向かった。念のため、畑を耕すのに使っている鍬を背に隠し、訪問者の姿が確認できる程度だけ扉を開き、外を覗いてみる。
「おはようございます!今日はいい天気ですね!」
「…ひっ!?」
隙間からちらりと覗き見た扉の向こうにある、見たこともない夕陽のような色のギョロリと見開かれた目と目が合い、反射的に扉を閉めようとした。
けれど
…っ…閉まらない…!?
背に隠していた鍬を落とし、両手で扉を持ち、全身の力を込めて閉めているのに、ピクリとも動かない。外から添えられた手は、一つしかないし、ぱっと見まったく力なんて込められているようには見えないのに。
「…っ…誰!?なんの用!?」
扉を閉じようと、懸命に力を入れながらそう尋ねると
「俺の名は煉獄杏寿郎。鬼を狩る者です!」
力の入れすぎで声が震えている私に反し、その煉獄杏寿郎と名乗る謎の男は、全く力の入っていなさそうな様子で扉に手を添えたままそう答えた。
”鬼を狩る者”
男から発せられたその言葉に、私は両親から聞かされたお伽噺のような話を思い出す。