第32章 迷子の迷子の鬼狩り様✳︎煉獄さん
私は人が殆ど訪れない山のふもとの小さな家に一人で暮らしている。
元々はそれなりに裕福な家の出で、両親に愛情をいっぱい注がれ育った。けれども齢18を迎えて数日たったある日、両親は暴走した馬車に轢かれ亡くなった。
それからはまぁ酷い扱いを…いや、表面的な扱いはひどくなかったものの、親戚誰一人として私を”柏木すずね”として見なくなった。
すずねさん。ご両親が残していったお金なんだけど
すずねさん。貴方のお父さんが残していった骨董品なんだけど
すずねさん。貴方のお母さんが残していった御着物なんだけど
すずねさんすずねさんすずねさん
どうやら、顔も名前も一致しない親戚たちは、私の姿がお金にしか見えないようだ。
そんな私を親戚から守ってくれたのは、昔から料理人として働いていてくれた古賀さんと、その奥さんだ。両親は”自分たちに何かあった際は、娘のことをどうか頼む”と古賀さんに言っていたそうだ。短期間で成功を収めた自分たちを、親戚が邪な目で見ていることに気づいていたからだ。
実際にそれが起こると、やはり両親の危惧していた通りになり、私のことを孫のようにかわいがってくれていた古賀さんは私の為にそれはもう烈火の如く怒り、金金煩い親戚に水を掛け、塩を撒き追い払ってくれた。
その姿が、私を奮い立たせてくれた。
煩い親戚に財産のほんの一部を送り付け、静かになったタイミングを見計らい残りの半分を古賀さん夫妻に渡した。もちろん断られたが、最終的に”必要最低限は使わせてもらって、あとは預かっておく”という形で何とか納得してもらった。
残った財産、思い出の詰まった屋敷すらも売り払い、自分で持てる物だけをもって、両親が隠れ家として使っていた家に、誰にも、古賀さん夫妻にも告げることなく移り住んだ。
隠れ家に住むようになって1年以上が経過した。
人の少ない早朝を狙い、最寄りの町の商店に行き、1週間分の食料を調達する。それ以外は、基本的にはあの隠れ家から離れたところには行かない。平穏な生活を守るため、自分で自分に課したルールだ。