第1章 頭に響く無駄に大きい声【音好きシリーズ】
「…頭に響くんだよね、あの声」
私は人よりも音に敏感で、音の好き嫌いも激しい。おそらくは弟弟子の善逸とは違った種類の耳の良さを持ち合わせているのだと思う。琴の音、川の流れる音、鳥の囀り、葉っぱの擦れる音、雛鶴さんが野菜を切る音。それらはたまらなく好きだ。反対に雷の音(雷の呼吸の使い手なのに)、豪風、血飛沫、大声、咀嚼音、どれもたまらなく苦手だ。加えて柱は忍びと同じくらい気配を消すのが上手い。気配もなくあの炎柱様特有の大声を出されたら、私は心臓が口から出てきてしまうのではと言うほど驚いてしまう。だからとにかく苦手だ。
なのになんで…よりによって恋人同士のふりをする相手に選ばれるのかな。憂鬱。
「お待たせしました」
このお店の娘と思われる小さくて可愛らしい女の子が、お盆に乗せたお団子とお抹茶を私の隣に置いた。
「ごゆっくりどうぞ」
「ありがとう。お手伝い?偉いね」
そう言って私が微笑みかけると、その女の子は照れたようにモジモジしながらお辞儀をして駆け足で店の中へと戻って行ってしまった。
「ふふっ。かわいい」
お皿に乗せられたお団子をひとつとり、3つ並んだ丸いお団子の1番上をパクリと頬張る。
うん。甘くて美味しい。
目をつぶり、私はその美味しいお団子の味を堪能していた。
「すみません!俺にも彼女と同じものを!」
「…っ!…ゴホッ…ゴホッ」
突如隣から聞こえた大声に、私の身体はびくりと大袈裟なほどに跳び上がり、驚きで咀嚼していたお団子を一気に飲み込んでしまい激しく咽せる。
「大丈夫か?」
咳をしながら隣を見ると、いつの間にそこにいたのか炎柱様が私の背中をその大きな手でさすりながら心配気に私の顔を覗き込んでいるではないか。
炎柱様が座っている反対側に置いてあるお抹茶を急いで飲み、お団子を無理やり奥へと流し込んだ。
ようやく落ち着きを取り戻した私に、
「驚かせてすまなかった!君は確か…変わった立ち回りをする隊士だったな!独特だった故よく覚えている!まさか君が宇髄の継子だったとは知らなかった!」
相変わらずの無駄に大きな声に思わず眉間に皺が寄りそうになったが、流石に苦手とはいえ相手は柱だ。そんな失礼な態度を取るわけにはいかない。
「音柱の継子になったのは、炎柱様とお会いした後ですので知らないのも無理はございません」