第30章 2人で初めてのmerryXmas【暖和】
そんなことを考えていると、杏寿郎さんの左手が私の頭部全体を包み込むように優しい手つきで撫でた。
「…今日の君は一層かわいらしかったからな」
杏寿郎さんのその言葉に、思わず私の肩がピクリと反応してしまう。私は、肩口に頭をくつけたまま視線だけを杏寿郎さんの顔へと向けた。
「…っ…」
目が合った杏寿郎さんのそれは、なにやら愛情をたっぷりと感じるような、そんな温かくも熱っぽくもあるものだった。
「普段心配になるくらい欲のない妻が俺に関してだけ欲深くなる…たまらないな」
杏寿郎さんはそう言いながら私の頭を撫でていた手を顎へとスルリと移動し
クイッ
と、優しく掴むと私の顔の角度を上へと変えた。その後、杏寿郎さんに何をされるかなど聞かずともわかり、私はその時が来るを待つようにゆっくりと目を瞑った。
フッと、顔の近くに気配を感じた後
ちぅ
唇を優しく食むような、甘いキスが落とされる。
柔らかく温かな唇はあっという間に離れていき、なんだか物足りないような気持になる。
「…そんな目で見られると、もっとしたくなってしまうのだが」
至近距離で見つめられたままそんな風に言われてしまえば
「…ん…もっと…もっと、して欲しいです」
そう思ってしまうのは当然で、下に下ろしたままだった腕を上げ、杏寿郎さんの太くて逞しい首にしっかりと腕を回した。
そのまま杏寿郎さんの唇に自分のそれを押し付けようとすると
「…嬉しいが…せっかく楽しみにしてたケーキを…食べさせてあげられなくなってしまうが…いいだろうか?」
僅かに眉間に皺を寄せ、自らの欲を懸命に押さえるような目で見つめられる。
「…ケーキ…?……っケーキ!」
テーブルへと視線を向けると、すっかりと忘れ去られたブッシュドノエルとコーヒーが寂しげにこちらを見ていた。
残り5センチ程で触れ合いそうになっていた杏寿郎さんの顔からゆっくりと離れ
「…っケーキは食べたいです!それに…プレゼントもまだ渡してないので…あの…っ…したいにはしたいんですけど…また…後でにしましょう?」
恐る恐るそう尋ねた。
「…そうだな!せっかくの美味そうなケーキだ!最高の状態で食べてやらねばかわいそうだ!」
「…っはい!」