第30章 2人で初めてのmerryXmas【暖和】
ブッシュドノエルに向けていた視線を杏寿郎さんの方に向け
「…いいんですか?」
漏れ出そうになってしまう喜びを抑えながらそう尋ねる。杏寿郎さんは
「あぁ!もちろん!」
ニコニコと満面の笑みを浮かべながら言った。
「…お行儀、悪くありません?」
「父上が見たら何か言うかもしれない!だが幸い、ここに父上はいない!明日煉獄家でクリスマスを祝うときはきちんと切り分けねばならないが、ここにいるのは俺とすずねだけ。何も気にする必要はない」
杏寿郎さんはそう言いながら、お皿と一緒に持ってきていたフォークを私に向け差し出してくれた。私はそれを、今度は完全に喜びを抑えられないままうきうきと受け取った。
「っやった!嬉しいです!」
「そうか?よもやそこまですずねが喜ぶとは予想外だ」
「だって…こういうのも一度してみたかったんですもん」
1つの大きなケーキをパートナーと一緒につついて食べる。傍から見れば面倒くさがりなだけにも見えるかもしれないが、私には仲のいい恋人同士がする特別なことのように思え、憧れを抱いていた。
「…君はいささか、欲がなさすぎやしないか?」
杏寿郎さんはそう言って、困ったような表情で私の事を見ている。
「…そんなこと、ないですよ?私、物欲とかは確かにあまりありません。でも…」
そう言いながら自分の頭の側面を隣に座っている杏寿郎さんの肩口にピトリと寄せた。
「杏寿郎さんに関してだけは…すごく強欲で…嫉妬深いです」
今日もショッピングセンターにいる間に、杏寿郎さんは何度となく女性から熱視線を浴びていた。その度に心の中で
”杏寿郎さんは私の夫ですから”
と、心の中で言いながら杏寿郎さんの腕により密着するように身体を寄せた。
…本当、我ながら嫌な女だな。でも…嫌なものは…どうしても嫌なんだもん。