第30章 2人で初めてのmerryXmas【暖和】
よく考えもせずぱっと思いついたことを行動に移してはみたものの、風味豊かなコーヒーの味と香りを楽しんでいるのに、クリームがたっぷりと入ったフラペチーノを飲んでしまえば味がわからなくなってしまうかもしれない。
「すみません!やっぱり大丈夫です!」
そう言いながら私が手を引っ込めようとするも
パシッ
杏寿郎さんが私の手首を掴み、ストローに口を寄せそのままフラペチーノを飲んでしまった。
一気に3分の1程の量が減り
「甘い!だが美味い!」
杏寿郎さんが私の手首から手を放さないままそう言った。そんな様子を私がきょとんと見ていると
「…美味いがやはり未だすずねの意図することがわからない」
そう言いながらフラペチーノをじっと睨むように見た。
…嬉しい
お尻を半分浮かせ、私は先ほど杏寿郎さんがしたのと同じようにストローに口をつける。ゴクリと一口フラペチーノを飲み込みストローから口を放す。
「…ひとりの時はいつも、これの半分くらいの一番小さなサイズを頼むんです」
そう言いながら私の右手首を掴んでいる杏寿郎さんの手に左手を重ねる。
「でも一番小さいサイズだと少し物足りなくて…でも普通のサイズだと大きすぎて…”もう飲めない”なんて言いながら彼氏や旦那さんに手伝ってもらう女の人を見て…私も杏寿郎さんにそうしてもらえたらなって…ずっと思っていたんです」
ごく当たり前で普通の事。でもその普通が”特別”であることを私は…私たちは知っている。
「夢がひとつ…叶っちゃいました」
そう言いながら杏寿郎さんのに重ねた手にギュッと力をこめると
「…随分と…かわいらしい夢だな」
杏寿郎さんは、眉の端を下げ、心がぽかぽかとしてしまうような温かい笑顔を浮かべながらそう言った。
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