第30章 2人で初めてのmerryXmas【暖和】
「む?目的の場所はここか?」
「はい。ここです」
店の奥から香ってくる香ばしくいい香りに、思わず目を閉じスゥッとその香りを鼻から体内へと取り込んだ。
「すずねはしたいことがあると言っていたはずだが…それがこのコーヒーショップでできるのか?」
「はい。出来ますよ」
「…むぅ。何がしたいのか想像がつかん」
「えへへ」
私が杏寿郎さんを連れてきたのは、コーヒーとフラペチーノで有名なお店。
「私、買ってきますので、杏寿郎さんは席を取っておいてもらえますか?」
「それは構わないが…ここで何がしたいと言うんだ?」
「大したことではありませんが、まだ内緒です。杏寿郎さんは何にしますか?」
杏寿郎さんは私に向けていた視線をカウンターの方へと向ける。
「…よし。俺は本日のコーヒーにしよう」
「ミルクと砂糖はなしでよかったですよね?」
「うむ!」
「わかりました。それじゃあ買ってきますので、座って待っていてください」
杏寿郎さんから離れ、私はコーヒーを注文する列の最後尾に並んだ。空いている席は2か所しかなく、杏寿郎さんは片方がソファー席、もう片方が椅子の席の方へと腰かけた。
そばにいた女性の店員さんが、杏寿郎さんが膝の上に荷物を抱えているのに気が付き、荷物を置く用の籠をテーブルの横に置いてくれる。店内の騒がしさでそのやり取りは聞こえないものの、杏寿郎さんが店員さんにお礼でも言ったのか、店員さんは頬をほんのり赤らめながら杏寿郎さんに向け会釈をした。
そんな様子をムッとしながら見ていると、私の視線に気が付いた杏寿郎さんとぱちりと視線が合った。すると杏寿郎さんは満面の笑みを浮かべ私に向けヒラヒラと手を振ってくれる。そんな杏寿郎さんの様子に、近くにいた女性が次々に目を奪われていくのがはっきりと見てとれた。
…そんな目で見ても無駄です。杏寿郎さんは私の杏寿郎さんですもん
そんな意地の悪いことを考えながら手を振り返す私は、独占欲の強い女なのだろう。けれども、独占欲が強かろうが、はたから見れば嫌な女だろうがそんなことは関係ない。私は、杏寿郎さんが私を愛してくれれば、私が杏寿郎さんを愛することを受け入れてくれればそれでいい。