第30章 2人で初めてのmerryXmas【暖和】
けれども、杏寿郎さんはそんな私の行動を引き留めるようにしながらニコリと笑みを浮かべ
「問題ない。俺の愛妻家ぶりは生徒とその保護者の間ではすでに周知の事実。何も心配する必要はない」
自信満々な様子でそう答えた。
「…そう…ですか…」
嬉しいやら恥ずかしいやら、そんな複雑ともいえる心境だ。けれども結局は杏寿郎さんの腕にくっついていたい私は、その気持ちに素直に従いその逞しい腕に身を寄せた。
前から来る人を上手く避け、広いモール内を腕を組み(私が一方的にくっついてるという方が正しい表現な気もする)歩く。いわゆる恋人繋ぎ…的なものもしてみたいところではあるが、私と杏寿郎さんの身長だとお互いにいまいちしっくりこない。だからこうして杏寿郎さんの腕にくっつくように腕を組むのが私は一番好きだ。
杏寿郎さんは私の腰を抱いて歩くのも好きなようだが、人前で腰を抱かれるのはどうにも恥ずかしさが勝ってしまい、二人で外を出歩くときは大抵このスタイルだ。
「何か見たいものはあるか?」
右斜め上からそう問われ、きょろきょろと辺りを見回していた視線を杏寿郎さんへと向ける。
「私、槇寿郎様と瑠火様と千寿郎さんにクリスマスプレゼントを買いたくて。お酒が買えるところと、雑貨屋さんと…あと本屋さんに行きたいです」
何の気なしに私がそういうと
「…父上と母上と千寿郎のプレゼント?」
杏寿郎さんは僅かに眉間に皺を寄せながらそう答えた。
…え?何でそんな顔?
杏寿郎さんがなぜそんな険しい顔をするのか、いまいちわからない私の首が僅かに左に傾く。
そんな私の様子をじっと見た後、杏寿郎さんは左右に視線を彷徨わせ
「…俺へのプレゼントは…ないのだろうか…?」
ほんのりと頬を赤く染めながらそう言った。そんな杏寿郎さんのかわいらしい発言に
…っ可愛いがすぎる!
私の心は鷲掴みにされた。
あまりの杏寿郎さんの可愛さに、顔がにやけてしまいそうになるのをぐっと堪え
「もちろんありますよ。でも杏寿郎さんへのプレゼントは、もう買ってあるんです。家に隠してあるので、お夕飯を食べて、ケーキを食べるときに渡しますよ」
クローゼットの奥にある、かなり前から用意してあったプレゼントの入った箱の姿を思い浮かべながらそう答えた。