第7章 その音を守るよ-後編-【音好きシリーズ】
日輪刀は…いらない。だって、私の刃が届くとは思えないから。
「炭治郎くん、これ預かっててくれる?」
「え?」
ベルトに差し込んでいた日輪刀を抜き、炭治郎くんに差し出すと目を見開き私の顔を見ていた。
「身体、少しでも軽くしたいの」
そう話している間も、炎柱様と上弦ノ参の戦いはより激しさを増していく。
クナイを一本取り出し
ビリビリッ
「流石…頑丈な生地」
「えぇー!?」
音を立て、隊服のズボンと袖を切り裂き短くしていく私に、炭治郎くんは目が飛び出しそうなほど見開き驚いていた。
「…お前…頭おかしくなったのか?」
伊之助くんも、猪頭を被っているから良くわからないものの、恐らく物凄い顔でこちらを見ているのではないかと思われる。
「言ったでしょう?軽くしたいの」
クナイを両手に持ち、原型を半分程しか留めていない隊服を纏ったこの姿は、もはや"鬼殺隊隊士"というよりも"忍"と言う方が相応しいだろう。実際問題、天元さんの元でやっていたのは8割程が忍の修行だったんだ。あながち間違いではない。
激しく争う炎柱様と上弦ノ参に再び神経を向ける。
目で追おうとするな。音をよく聞いて。変なタイミングで割り込んだら逆に邪魔になってしまう。冷静に。集中して。
耳を塞ぎ、蹲りたくなるような轟音が続く。その音と、目の前で繰り広げられる信じられない位に激しい戦いに心が負けてしまわないよう、頭のなかで大好きな琴の音を鳴らす。
リズムを刻んで。勝つ必要はない。時間を稼げ。炎柱様を助けろ。
ドォン!
「…煉獄さん!」
「ギョロギョロ目ん玉!」
上弦ノ参を追いかけて木々の中へと消えていった炎柱様が、その攻撃で吹っ飛ばされてきたのか、盛土に激突する。炎柱様は後頭部を抑えゆっくりと立ち上がった。そんな炎柱様に向かい、徐に近づく上弦ノ参。
「鬼になろう杏寿郎」
っふざけるな。寝言は寝て言え!
ザッと炎柱様と上弦ノ参の間に入り込み、クナイを構える。
「…っ柏木!?」
「なんだお前は?俺と杏寿郎の邪魔をするな」
「あなたこそ、気安く炎柱様の名を口にするのを辞めてくれない?…炎柱様の素敵な名が…汚れる」
「なんだとぉ?」
上弦ノ参は額に筋を浮かべ私を睨みつけている。
「柏木!退くんだ!命令だ!」
背後から炎柱様の怒鳴り声も聞こえる。