第7章 その音を守るよ-後編-【音好きシリーズ】
「…っよいしょ!」
けたたましい音を立て脱線した車両から抜け出すと、状況はひどいものだった。それにもかかわらず、パッと見回して命を落としている人が確認できなかったのは、沢山の技を出して列車の被害を食い止めてくれた炎柱様のお陰なのだろう。
やっぱり炎柱様は凄い。私は…自分がいた車両の人達を守ることしかできなかった。
脱線した車両を一つ一つ見て回り、重症者がいないかを確認して行く。幸運なことに、今のところ命の危険がありそうな乗客は見当たらなかった。
「…っ善逸!禰󠄀豆子ちゃん!」
その中に、禰󠄀豆子ちゃんと見知らぬ女性、そしてその子どもと思われる子を守るように倒れている善逸を発見し、慌てて駆け寄る。頭の先から爪先までゆっくりと確認し、結果としては額に出血は見られるものの、気絶しているだけのようだった。
ホッと息を吐いていたその時
「…っ何!?」
感じたことのない程の重苦しい気配を、列車先頭の方から感じた。
あっちには炎柱様と炭治郎くん、それに伊之助くんがいたはず…!
「ごめん善逸。…行くね」
本当は手当をしてあげたいところだが、もうそれどころではない。一刻も早く列車の先頭に向かい、みんなの…炎柱様の助けにならなくてはならない。それ程禍々しく、そして嫌な予感を先頭車両の方から感じた。
脚に力を込め、常中している全集中の呼吸を更に深くし、私が出来る最速で向かった。
私の嫌な予感…当たらなかった事はないんだよな。
今回ばかりは、その予感が外れていることを祈らずにはいられない。でも、現実はそう甘くはなかった。
「…あの鬼は…何?」
たどり着いた先で目にしたのは
「すずねさんっ」
座り込む炭治郎くん、立ち姿のまま固まっている伊之助くん、そして
「…上弦ノ…参?」
目で追うのがやっとなほどの速さで戦いを繰り広げる炎柱様と、初めて目にする上弦の鬼の姿だった。
バクバクと自分でも聞いたことがないような音が心臓から聞こえていた。嫌でもわかった。ここにいる炎柱様、炭治郎くん、伊之助くん、そして私ではあの鬼の頸を切る事は不可能だと。
だったらやる事はひとつ。
結論はすぐに出た。夜が明けるまで粘ってあの鬼を撤退させる。それが出来なければ、その先に待っているのはおそらく最悪の結末。私の任務の失敗。つまりは炎柱様の"死"。