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鰯料理の盛合せ【鬼滅短編・中編・長編番外編】

第29章 抱き枕はどこへ?【掌編✳︎炎風音水霞柱】


【義勇さんとダイオウグソクムシ】


残業から帰り、”やっと帰ってきたか(遅くなるとは聞いていない寂しかった)。腹が減ったから早く着替えて準備をしてくれ(一人で食べるのは寂しいから早く着替えて一緒に食べよう)”、笑えるほど口数の少ない、尚且つ口下手な恋人がパンプスを脱ぐ私をじっと見ながらそう言った。

誰もが振り返るほど格好いい容姿を所持しながら中身は子どものように手がかかって可愛い恋人に”急ぐから待っててね”と告げスーツから着替えようと寝室に足を踏み入れた私は驚愕した。

「っ義勇さん!」

私の声を聞きつけた義勇さんが

てちてちてち

その見た目には似合わないなんともかわいい足音を立てながら寝室へとやってきた。

「どうした?」

寝室のドアに背を預け、腕を組んだ義勇さんが私に視線を寄越す。

「…私のダイオウグソクムシ知らないですか?」

義勇さんとの初めての水族館デートの時、その少し青みがかった瞳と触角の感じがどことなく義勇さんに似ている気がして、値段も見ずレジに持って行った私のかわいい(いやそこまでかわいくはないか)ダイオウグソクムシ。”義勇さんに似ています!”なんて言った私に、”ちっとも似ていない”と照れ臭そうに答えてくれた、そんな大事な思い出の詰まったあのダイオウグソクムシ。  

「…ないんです」

ばさりと掛け布団をまくっても
ダブルベッドの下をのぞいても
ウォークインクローゼットを開けても

「…どこにも…」

その子が見当たらない。

私の…ダイオウグソクムシ…いったいどこに行っちゃったの?

そんなことを考えながら呆然と、今朝までダイオウグソクムシがちょこんと鎮座していたベッドを見つめた。

「…そんなにあの抱き枕が大事なのか?」

「え?」

普段から小さい声を、さらに小さくした義勇さんがそう呟いた。

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