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鰯料理の盛合せ【鬼滅短編・中編・長編番外編】

第29章 抱き枕はどこへ?【掌編✳︎炎風音水霞柱】


【実弥さんとシャチ】


残業から帰り、キッチンで夕飯を作っている最近流行りの言葉で表せば所謂スパダリ(え?最近じゃない?)と呼べる恋人の背中に1度抱き着いた後、部屋着に着替えようと寝室に足を踏み入れた私は驚愕した。

「っ実弥さん!大変です!」

そんな私の叫びにも近い大声に

ペタペタペタ

「んだようるせェな」

キッチンにいた実弥さんがけだるげにスリッパの音を立てながらやってきた。

「今朝までここにあった筈なのに…私のシャチが…いないんです!」

3日前、ショッピングセンターにあるUFOキャッチャーの中からつぶらな黒い瞳で私に”連れ帰ってー”と猛烈にアピールしてきたシャチが。2000円も投入しようやく連れ帰ることに成功した私のピンクのシャチが

「…っないんです!」

所定の場所にいない。

ばさりと掛け布団をまくっても
セミダブルベッドの下をのぞいても
ウォークインクローゼットを開けても

「ないんです!!!」

「うるせェなァ…」

何処にもいない。

「実弥さん…知りませんか?」

「…知らねぇなァ」

「ですよね」

寝室を出てキッチン、リビング、実弥さんの書斎、浴室、そしてトイレを回るもやはりない。

「…なんでないのぉ…」

ガッカリと肩を落とし、トイレの前で立ち尽くしていると、リビングの扉に背を預け、くつくつと声を押し殺すように笑っている実弥さんの姿が目に入った。

「…っほら!やっぱり実弥さんじゃないですか!私のシャチ、どこにやったんです!?」

そう言いながらラフなスウェット姿の実弥さんに詰め寄る。

「ベランダは見たのかァ?」

「っ見てません!」

バタバタとリビングの最奥にあるベランダに繋がる窓のところまで移動し、黄緑色のカーテンを開くと

「いたぁ!」

私のシャチが、まるで干物のごとく、物干し竿に掛けられたネットに乗せられていた。

「お前あのシャチ洗ってなかったろォ?誰がいつ触ったかわかんねェもんをベッドに入れたくねえからな…勝手に洗わせてもらった」

「…まさかあの子を洗濯機にぶち込んだんですか?」

「洗うときは手もみ洗いしたがァ脱水はどう考えても無理だろォ。洗濯ネットに入れてやっただけでも感謝しなァ」

「…そうですね。ありがとうございます」

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