第28章 雨降って愛深まる✳︎煉獄さん※裏表現有
「…っあの…せめて…杏寿郎さん…ではだめでしょうか?」
甘えるように上目遣いをしながら杏寿郎様にそう尋ねる。
「…仕方ない!その可愛らしい顔に免じてそれで我慢しよう!では、改めて…呼んではくれないか?」
改めてそうして欲しいと言われるとやはり恥ずかしくはあるのだが、杏寿郎様…もとい、愛する夫である杏寿郎さんに期待のこもった視線で見られてしまえば、妻としてはその期待に応えない訳にはいかない。
「……杏寿郎さん…」
「すずね」
「…杏寿郎さん」
「すずね」
「杏寿郎さん」
「すずね」
意味もなく互いの名を呼び合い
「ふふっ」「はっはっは!」
なんとも恥ずかしいやり取りに、お互い顔を赤くし笑い合った。
その後、"疲れているだろうから今夜は外に食べに行こう"という提案に甘え、杏寿郎さんと私は久方ぶりに外食を楽しんだのだった。
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翌朝。
「杏寿郎さん…お願いしたいことがございます」
居間で報告書に筆を走らせていた杏寿郎さんの手が止まったタイミングを見計らい声を掛ける。
「お願い?なんだ?」
杏寿郎さんは硯に筆を静かに置くと、報告書に向けていた視線を私へと向けてくれた。私はそんな杏寿郎さんにゆっくりと近づき、隣に腰掛ける。
「…昨日私は…甘露寺様に酷い態度を取ってしまいました…。きちんと、非礼をお詫びしたいので…甘露寺様にお会いする機会を作っては頂けないでしょうか…?」
すれ違いを経て、杏寿郎さんと仲良くなりました。めでたしめでたし。
と言うわけにはいかない。あらぬ誤解をし、敵対心を抱き、甘露寺様に酷い態度を取ってしまった謝罪を私はしなければならない。
「わかった。甘露寺に文を飛ばそう!だが、甘露寺も俺と同じ柱。多忙な身故、いつになるかわからない。それでもいいか?」
「…っもちろんです!」
「では、予定がついたら知らせよう」
「ありがとうございます!それでは私、洗濯を済ませてきますので失礼します」
そう言って立ちあがろうとした私の手を
パシリ
杏寿郎さんの手が掴んだ。