第28章 雨降って愛深まる✳︎煉獄さん※裏表現有
すると杏寿郎様は、優しく抱いてくれていた私の頭をパッと離し
「それだ!それがおかしい!」
そう言って、私の顔にズイッとものすごい眼力の瞳を向けてきた。
「俺は今まで一度たりとも甘露寺をそんな風に見たことはない。そして何より、すずねさんのことを義務感でそばに置いているなどという事は…決してない!正直に言うと初めは確かにそんな気持ちもあった。だがすずねさんと共に過ごせば過ごすほと、その細やかな気遣いや、どんな時でも俺を穏やかな笑顔で迎えてくれるその優しさに心奪われた!その気持ちに、少しの嘘偽りはない!」
私の求めていた答えが杏寿郎様の口から紡がれ
「…っ…本当…ですか…?」
ボロボロとものすごい勢いで私の目尻から涙が溢れていく。
「うむ。本当だ!俺は決して嘘はつかない!」
「…っ…嬉しい…」
…私の…勘違いだったんだ…。
嬉しさと安心感で、私の涙は全くと言っていいほど止まる気配はない。そんな私の涙を、杏寿郎様の硬くて、それでも優しさに溢れる親指がグイッと拭ってくれる。
「それにだ。俺からしてみれば、すずねさんの方こそ無理をして俺の元に嫁いできてくれたのだと思っていたのだが…違うのだろうか?」
杏寿郎様はあまり私が見たことのない不安げな表情で私にそう尋ねてきた。そんな杏寿郎様の頬を手のひらで包み
「…っそんなことはございません!私は…杏寿郎様が婚約破棄を告げに柏木家に来たあの日…杏寿郎様に自分の一生を捧げたいと、添い遂げたいと心より思ったのです!…杏寿郎様に一目で恋に落ちたのです…!」
初めて自分の気持ちをきちんと口にした。杏寿郎様は私の手に自身の大きなそれを重ねた。
「すずねさん。先ほどあなたは、自分は帰りを待つことしかできないと、そう言っていたな?」
「…はい」
そう尋ねてきた杏寿郎様は、私の"はい"という返事を聞くと、眉尻を下げ、普段は釣り上がった猛禽類のような目を優しく細め
「それでいい。いや…むしろそれがいいんだ」
そう言って私に向けとても優しい笑みを向けてくれた。
「…っ!」
その初めて目にする表情に、私は杏寿郎様にこの身を捧げると誓った日と同じくらい…いや、それ以上に熱い何かを胸に感じた。