第28章 雨降って愛深まる✳︎煉獄さん※裏表現有
「…っ…!」
そんな事を、そんな表情で言われてしまえば
…やめてよ…さよならが…言えなくなっちゃうじゃない…
この屋敷を去ると決めていたはずの心が、グラグラと揺らいでしまいそうになる。
いっそのこと2番目でも…甘露寺様の代わりでもいいから…そばにいさせて欲しいと…そう言ってしまおうか…でも…そんなの…やっぱり辛い…
目頭がじわじわと熱くなり始め杏寿郎様の顔をはっきりと映していたはずの視界がぐにゃぐにゃと歪み始める。
「…そうだ…そうして、本来のすずねさんを、俺にもっと見せて欲しい」
杏寿郎様はそう言いながら、私の両肩に置いたままだった手で私の身を引き寄せ、頭をそっと抱き寄せてくれる。
「…っ…どうか…優しく…しないでください…」
「何故だ?自分の妻に優しくすることの、何がいけない?」
「…それは…」
「それはなんだ?」
杏寿郎様はいつも私のことを丁寧に扱ってくれていた。けれどもその"丁寧な扱い"が、何だかとても他人行儀に思え、義務感から夫婦として生活してくれているんだと、仕方なくそうしてくれているのだと、ずっとそう思っていた。
けれども、先ほど私を強引に抱いた杏寿郎様も、今こうして私の頭を優しくその腕に収めてくれている杏寿郎様も、今朝までのお客様扱いをしてくる杏寿郎様とは明らかに違っていた。それら全てが
"杏寿郎様は甘露寺様が好き"
と思う私の気持ちを否定してくれているような気がした。私はその自分の考えが、間違っていない事を確かめたくなり
「…杏寿郎様は…甘露寺様がお好きなのですよね…?こんなことをされたら…甘露寺様が…誤解してしまうかもしれませんよ…?いいのですか…?」
杏寿郎様にそう尋ねた。