第28章 雨降って愛深まる✳︎煉獄さん※裏表現有
"絡まれていたのを以前助けていただいただけ"
"転びそうになったのを受け止めてもらっただけ"
そう答えれば済むと言うのに、不貞を疑われるような問いをされたのが腹立たしくてたまらない私は
自分は私を放って甘露寺様と甘味屋に行ってたくせに…何故私だけそんな風に聞かれなくてはならないの?そんなに甘露寺様を優先したいのであれば…もういっそのこと離縁してくれればいいのに
そんなことを考えながら
「…杏寿郎様には…関係のないことです」
杏寿郎様を睨みつけそう言った。私のその答えに一瞬顔を歪めた後
「……そうか」
いつもの表情に戻り、いつもの声色でそう答えた。その表情も声色もいつも通りの杏寿郎様に見えるはずなのに、その目の奥からただなら雰囲気を感じ
「…っ!」
思わず一歩後ずさってしまう。その時
「あの…煉獄さん、すずねさん…こんなところで…その…喧嘩は良くないわ」
いつのまにかすぐそばに来ていた甘露寺様に、申し訳なさそうな顔でそう言われてしまい
…っ…誰のせいで…私がこんな気持ちになっていると…!
思わず甘露寺様にジロリと視線を向けてしまった。甘露寺様はピクリと肩を揺らし
「…すみません!夫婦の問題に関係のない私が口を挟むなんて…失礼ですよね!」
そう言って頭を下げられてしまう。そんな甘露寺様に
「何を言っている!甘露寺が俺たちと関係ないわけがない!」
杏寿郎さんが投げかけた言葉に、私の我慢は限界を迎えた。
「…っもう十分です!そんなに甘露寺様のことがお好きであれば…今すぐ離縁して差し上げますのでどうぞお好きになさって下さい!」
ここが人通りの多い街中であることも忘れ杏寿郎様を怒鳴りつけ
「さようなら!」
どこかの街で給仕として働きながら一人で生きてやる!
そう心に誓い、目を見開き固まっている杏寿郎様、泣きそうな顔をしている甘露寺様、顔色悪くオロオロとしている千寿郎様に背を向け歩き出だした。
けれども
ギリッ
「…っ痛!」
ものすごい力で左手首を掴まれ
「そんなの…許せるわけがないだろう」
杏寿郎様の明確な怒りを孕んだ声色に、背筋がスッと冷たくなり、足が全く動かなくなってしまった。