第28章 雨降って愛深まる✳︎煉獄さん※裏表現有
「ここで再会できたのも何かのご縁。よろしければこの後私と食事でもいかがでしょうか?」
ニコニコと人のいい笑みを向けられながらそう言われ
…初めて…殿方に誘われてしまった…!
不覚にもドキドキと胸が騒ぐのを抑えられなかった。それでももちろん
私が好意を抱き、この命尽きるまで添い遂げると決めたのは杏寿郎様ただ一人
そう思い、それをそのまま目の前の男性に伝えようとした。けれどもふと、先ほどの情景が思い出され
…杏寿郎様も…こんな風に私のことを…見てくれたら良かったのに…
ぼーっと男性の顔を見ながら何も言えなくなってしまった。
「…あの…どうかされました?」
そんな私の様子を不思議に思った男性が私に向け手を伸ばしてきたその時
「俺の妻に何か御用がお有りだろうか?」
私の視界を
"杏寿郎様が必ず無事で帰って来れるようお守り下さい"
そう祈りにも似た気持ちを込め洗っている羽織が埋め尽くした。
「…妻?」
「…っ杏寿郎様…!」
戸惑う私と男性を気に止める様子もなく
「すまないがすずねさんは俺の大切な妻だ。食事に誘うなら別の女性にしてもらいたい」
杏寿郎様はそう言いながら、私の身体をその背に隠すように後ろ手で抱えるように触れてきた。
その言葉が、行動が堪らなく嬉しくて、私はギュッと着物の合わせ目を両手で強く掴んだ。
「おやおや。まさかご主人がいらっしゃるとは…残念です」
「あぁ。残念だが、貴方がつけ入る隙は少したりとも無い」
初めて耳にする杏寿郎様のほんのりと苛立ちを孕んだ声と、相手を煽るような口ぶりに
…杏寿郎様…こんな所もあるんだ…初めて知った
胸をときめかせ、そんなことを考えていたが
「あ!いたわっ!煉獄さん!」
「…っ!」
耳に入ってきた甘露寺様の声に、身体の温度が再び急降下していった。