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鰯料理の盛合せ【鬼滅短編・中編・長編番外編】

第28章 雨降って愛深まる✳︎煉獄さん※裏表現有


こんな時、柏木家に帰れたらいいのに、きっと嫁いだ私が簡単に実家に寄りつくことをあの厳しい母が許してくれるはずもない。


…帰る場所が…あそこしかないなんて…杏寿郎様に必要とされない私なんて…何の価値もないただのダメ人間だ


そんな暗い気持ちに心を支配されながらも、決して下を向くことも、姿勢を崩すこともなく歩き続けることで、辛うじて壊れそうになる心を留めていた。

一刻も早く3人から離れたい一心で、半ば駆け足気味に歩いていたが、普段屋敷の掃除位でしか身体を動かさない私の身体がそんなに長い時間速く歩き続けることが出来るはずもなく


ザッ


「…あっ…!」


…っやだ…こんな人通りの多い場所で…!


足がもつれ、往来の真ん中で転びそうになった。

けれども


パシッ


「…大丈夫ですか?」


間一髪のところを正面から歩いてきた男性が受け止めてくれ、なんとか転ぶのを避けることが出来た。


「…っ…申し訳ございません…!」


慌てて身体を支えてくれている男性から離れるように起き上がり、助けてもらったお礼を述べようと顔を上げると、視界に入ってきたのはどこか見覚えのある男性だった。


「おや?あなたは確か…以前もお会いしたことがありましたね?」

「…はい。一度ならずニ度までも…助けていただきありがとうございます」

「どういたしまして。あの後無事お家に帰れたか、ずっと気になっていたんです」

「ええ。お陰様で無事帰りつきました」

「それは良かった」


そう言って人の良さそうな笑みを浮かべているのは、前回一人でこの街に来た際、厄介な人達に絡まれていた私を助けてくれたあの時の男性だった。


「まさかまた貴方にお会いできるとは。僕は今日とてもついているようだ」


意味ありげにそう言いながら私の目をじっと見つめてくる男性に、不覚にも


ドキッ


心臓が大きく波打った。

今まで一度も男性から向けられたことのない、明確な好意を孕んだ視線を向けられ、頬が熱くなり、その視線から目を逸らすことが出来なかった。


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