第28章 雨降って愛深まる✳︎煉獄さん※裏表現有
…杏寿郎様…甘露寺様とあの甘味屋さんにいたの……?
恥ずかしさで熱くなっていた全身が、瞬く間にスーッと冷たくなって行った。
なんで?
どうしてよりによって
甘露寺様と一緒に
その店から出てくるの?
ギリッ
やり場のない憤りにも似た感情をどうしたらいいのかわからず、私はギュッと両手で強く拳を握った。
隣にいた千寿郎様は、久方ぶりに会えた杏寿郎様とまさかこんな街中で会えるとは思っていなかったのか
「義姉上!兄上たちのところに行きましょう!」
そう言って私に声を掛けてはくれたものの、感情の対処が追いつかず、その場から動くことのできない私を置いて駆けて行ってしまった。
その場に取り残された私と
「千寿郎!このような場所で会えるとは!」
「きゃー!千寿郎君久しぶり!まさか会えるなんて私とっても嬉しいわ!」
「蜜璃さん!お元気そうでよかったです!」
千寿郎様の存在に気がついた杏寿郎様と甘露寺様は、自分達の元に駆け寄ってきた千寿郎様を迎え入れるように杏寿郎様が千寿郎様の右腕を、甘露寺様が左腕を掴み互いの距離を縮めた。
その一方で私は、杏寿郎様が私がずっと2人で行けたらと望んでいた場所から甘露寺様と出てきた姿を目の当たりにし、ただ呆然とひとり立ち尽くすことしかできない。
…あんな姿…見たくない。
…こんな姿…見られたくない。
やっぱり杏寿郎様は…私なんかじゃなくて
甘露寺様と恋仲になって
婚姻を結びたかったんだ。
なのに私が…あの時あんな風に言ったから…
本物の夫婦に近づけたのかもしれないと思っていたはずなのに、自分の入る隙なんかどこにも見当たらない3人の楽しげな様子を目の当たりにした私は、義務感で妻にしてもった、夫婦生活を営んでもらっている自分の存在が酷くあさましいものに思えて仕方なかった。
…もう無理かもしれない
気がついた時には踵を返し、来た道を戻っていた。
"すずねさん!"
私の名を呼ぶ杏寿郎様の声が聞こえた気がしたが
甘露寺様より私のことを優先するはずなんてない
そう思った私は、足を止めることなく人混みに紛れるように歩き続けた。