第6章 その音を守るよ-前編-【音好きシリーズ】
自信あり気に言う炭治郎くんの顔を、首を傾げ見ていると
「俺は人よりも鼻がいいんです。この切符の匂いを辿ればすぐに鬼のいる場所がわかるはず。だからすずねさんはもしもの時のために一刻も早く煉獄さんを起こして下さい!善逸と伊之助は禰󠄀豆子が起こします!」
私の目をまっすぐ見据えそう言った。
「…わかった。でも絶対に無理はしないでね」
「はい!」
そう言うと、炭治郎くんは禰󠄀豆子ちゃんの頭を一度撫で、車両の連結部へ向かい駆けて行った。
「さてと。私たちは眠っているこの3人を起こそうか」
私がそう言って禰󠄀豆子ちゃんに笑いかけると
むぅ!
と力瘤を作りとても張り切った様子で、
「っもう!かわいい!」
私はあっという間に禰󠄀豆子ちゃんにメロメロになってしまった。
けれどもいつまでも呑気に禰󠄀豆子ちゃんを愛でているわけにはいかない。依然として座席に腰掛けながら眠っている炎柱様を覗き込むと、若干覚醒しかけているのか眉がほんの少し動いている様子だ。
まつ毛、長い。
綺麗な寝顔をこのまま見ていたいと思う自分がいた。そんな馬鹿げた感情を心の底に沈め
「炎柱様!起きて下さい!炎柱様!」
その両肩に手を置き、揺すり起こそうと試みる。けれども再び眉がほんの少し動いただけで、覚醒するまでには至らない。
「もう!炎柱様!鬼です!起きて下さい!」
それでも段々と目覚めに近づいてきているようで、今度は炎柱様は何かを言っているようで口元が微かに動いていた。
「…せん…ろ…」
反射的にその口元に耳を寄せてしまい、聞こえてきた言葉は
「…兄が…いる…」
と、炎柱様は言った。
きっと弟さんの事を夢見てるんだ。必ず…炎柱様を弟さんの元に帰してあげよう。
そんな事を1人心の中で思っていたその時。
「…っ!?何!?」
突然車両の壁や床がウネウネとまるで生き物のような姿に変化して行く。
"禰󠄀豆子ー!すずねさーん!眠っている人たちを守るんだ"
炭治郎くんの叫び声が微かに聞こえ、私は炎柱様の身体から離れ、日輪刀を構える。その時、目の端に急に飛び起きた伊之助くんの姿が目に入った。
「猪突猛進ー!!」
起きるや否や叫び声を上げ車両の天井に頭突きをし、穴を開け出て行ってしまった様子に
「…すご」
こんな状況にも関わらず私はポカンとしていた。