第6章 その音を守るよ-前編-【音好きシリーズ】
炎柱様は代々続く鬼狩りの名家の御子息。私のような身寄りのない、そうでなくても可愛げのない女と食事なんかに行っている暇なんてありっこない。
そんなの有り得ない。…あったらいけない。炎柱様は、相応しい家柄の、綺麗で奥ゆかしい、従順な女性とその人生を共にするべき。…嫌だな。こんな事を思うなんて…まるで私が炎柱様事を…。
それ以上考えることはやめた。
目を瞑り耳をすませる。
「何してんだよ」
「うるさいです。静かにしてください」
「っ本当に可愛くねぇやつだな!間に合わなくても知らねぇぞ!」
天元さんはそう言うと、一瞬でその姿を消してしまった。
ふぅ。やっと集中できる。
目を瞑り、耳をすませ、辺りの様子を探る。そうすると、やはりこの場所自体に言いようのない違和感を感じた。
近くに…さっきの天元さんや、家の中にいる雛鶴さん、マキオさん、須磨さんと違う感じの音の持ち主がいる。
私がその存在に気づいている事を悟られないよう、この馬鹿げた夢物語に沿うため普段着の着物に着替えた。
この世界は一体なんなんだろう…考えるよりとっ捕まえて聞いた方が早いか。
着替えて外に出ると
「柏木!待たせたな!」
着流姿の炎柱様の姿が。
「……」
その普段は見ない出立ちに、一瞬見とれた。そして見とれた自分に驚愕した。
私、やっぱり炎柱様の事を…はっ。馬鹿げてる。
滑稽だ。
「…っ柏木!?」
私は返事をする事なく、探りあてた音の持ち主の元へと急ぎ向かった。
「正直に言いなさい。ここは何処であなたは誰?」
「ヒッ」
「正直に答えないと…徐々に…力を加えていくから」
首にクナイを軽く当てがい、脅し文句を並べる。我ながら酷い事をするもんだとは思うものの、背に腹は代えられない。
「…っごめんなさい…俺…」
「謝罪の言葉なんていらない。私はこの世界から抜け出す方法を知りたいだけ。それ以外のことは…今はどうでも良い」
我ながら冷たくて、嫌な女だと思う。それでも、私は、今私がするべきこと、したいことはただ一つ。
炎柱様の助けになりたい。
それだけだった。
「…自分の…首を…切ってください…」
「その言葉、嘘はない?」
グッとクナイ力を込める。
「…っはい」