第27章 お前の未来、俺が全て貰い受ける✳︎不死川さん
地図で確認した花屋のある場所まで久々に全力疾走で向かっていると
…前も、こんな風に走ったことがあったなァ
思い出されるのは、すずねが産気づいた時、街まで産婆を呼びに行った時のことだった。呼吸を使わずに全力疾走をすることが、あんなにも疲れることをあの時久々に思い出した。それでもあの時は、ようやくすずねと俺の子に会える楽しみで、んなもん少しも気にならなかった。今もそう。まさにあの時と一緒だ。
…早く…すずねに会いてェ…!
目的地に向け、俺はとにかく足を動かし続けた。
…あれだ…!
”FLOWER SHOP CUMULUS"
チラシに載っていたのと同じく、レンガ柄のレトロな外壁が印象的なこじんまりとした花屋が目に入った。その途端、重くなり疲れを感じていた足が途端に軽くなった気がした。
花屋の数メートル手前で足を止め
ふぅぅぅぅぅ
走ったことで早くなった鼓動と、すずねに再び会えると喜び沸き立つ心を落ち着かせるように大きく息を吐いた。
…よし。
ゆっくりと花屋へと近づき、自動ドアの前まで進む。
ウィーン
自動ドアが開いた途端、ブワリと香ったむせ返りそうになる程の花の香りに思わず足を止めた。それがまるで俺がそこに入っていくのを拒んでいるような、そんな錯覚に陥る。
…だが、んなもん関係ねェ。絶対に俺は、すずねを側に置くんだ。
鬼に命を脅かされることのない世界で。すずねと今度こそ、可能な限り長い時を過ごしたい。そしてまた、目に入れても痛くないほどに可愛い息子に、壱弥に会いたい。
そんな希望を胸に抱き、俺は開け放たれたままの店の扉をくぐり、ようやく店内へと足を踏み入れた。
様々な種類の、そして色とりどりの花がたくさん並べられた店内を見まわしてみるも、そこにすずねの姿はおろか、店員の姿は見当たらない。その代わりレジカウンターに
”ただいま席を離れております。大変お手数ですが、御用のあります方はベルを鳴らしてください”
そう書かれた小さな看板が立てかけられていた。