第27章 お前の未来、俺が全て貰い受ける✳︎不死川さん
永遠に自分のものでいてほしい
そんなことを思うのは俺のエゴだ。俺がいなくなった後も、あいつの人生はまだまだ続く。若い女が、不幸にも未亡人になって、再婚することなんざよくある話。だからそうしたいと思う相手が現れれば、すずねもそうすればいいと思った。
いや。んなもん嫌に決まってる。目に入れても痛くない息子と、自分でも呆れちまうくらい好きになっちまった女が、俺以外の別の男と生きていく。んなことは考えたくもねえ。ずっと俺のことを思って生きてりゃいいのにと、本音では思った。
んなこと…言えるわけがねェ。
だから俺は、この伝えられない、伝えるべきじゃない俺の本音を、ホトトギスの櫛に託した。あいつは好きだの愛してるだの平気で言うくせに、案外こういった話に疎い。櫛ってだけで喜ぶことは想像に容易いが、きっとその隠された意味に気が付くことはねえだろう。
それでいい。
それがいい。
あの櫛を見つけたあいつは、おそらく泣いて喜ぶ。その姿を頭の中で想像すると
…やべ…すげェ会いてえ…
辺りを吹く風にも負けねえ速さで、あの家に帰りたくなった。
信じられねえほど平和で
穏やかで
幸せな毎日だった。
それがとうとう終わる。
身に余るような幸せな時間を、すずねと壱弥からもらった。だから自分の人生がその日をもって終わることを悲しいとは思わなかった。ただ、自分がいなくなった後、すずねと壱弥がどんな生活を送っていくかが心配だった。
宇髄にも、竈門にも、栗花落や神崎達にも
”俺がいなくなった後、どうかすずねと壱弥の事…気にかけてやってくれ”
そう頼んだ時、誰も彼も二つ返事で俺の願い出を聞き入れてくれた。あいつの気持ちを誰よりもわかるに違いねえ冨岡の嫁さんにも文を送った。汚ねえ字の、ちっともまとまりのない文だったのに
”お任せください”
見た目通りの達筆な字で書かれた文がすぐに返ってきて、ものすげえほっとした。