第27章 お前の未来、俺が全て貰い受ける✳︎不死川さん
赤ん坊が産まれた時。壱弥が産まれた時は死ぬほど嬉しくて柄にもなく涙なんか流しちまった。
母ちゃんを失った時。
匡近を失った時。
お館様を失った時。
そして玄弥を失った時。
涙を流す時は、いつも俺の大切な誰かがいなくなっちまった時だった。そんな俺が初めて
…ちっちぇえなァ…可愛すぎんのにも…程があるだろうがァ…
嬉しくて泣いた。玄弥が産まれた時も、そりゃあ嬉しかった。だがその時とはまた違った感情が溢れて来ちまって止まらなかった。
"…やっぱり…実弥さんそっくりで…食べちゃいたいくらいに可愛い…"
壱弥を産んだばっかりの、汗まみれでおでこに前髪が張りついちまっているすずねを
"世界で1番綺麗な女"
だと本気で思った。
"…っ…ありがとうなァ…すずね…"
お前を置いて
死ぬ運命にある俺を選んでくれて。
馬鹿がつくほど真っ直ぐな愛をくれて。
世界でたった一つの
"壱弥"という宝物をくれて。
自分のことを不幸だなんて思ったことは一度もなかったが、幸せだとも思ったこともなかった。
だがすずねのお陰で、俺は自分のことを
…世界一幸せな野郎なんじゃねえかァ?
阿保臭ェなと自嘲しながらも、そんな風に思えちまったんだ。
それでも、その幸せに終わりが来るのはどう足掻いても避けられるはずもなく、色々と、別れの準備を始めなけりゃならねえ時を迎えちまった。
だが
"別れの準備が出来る"
その事が、いかに幸せで、恵まれたことなのか、俺は嫌と言うほど知っている。
輝利哉様や、先に去っちまった冨岡のお陰で、俺がいなくなってからのすずねと壱弥のために何を残せるのかを考え、それを行動に移す時間もあった。
ある突然、何の前触れもなく逝くんじゃない。いつ、どんなふうに、どこでそれを迎えるのかを俺は選ぶことができる。そしてその時を、心の底から大切だと思うすずねと壱弥と共に迎えられる。
…どれだけ礼を言って足らねェよ。